願わくは、雨にくちづけ

 下腹部に跨っている彼女をそのままに、ギュッと抱きしめる。
 唐茶色の着物がはだけても気に留めずにいると、伊鈴がみるみるうちに胸元まで赤らめて火照らせた。


「伊鈴が欲しい」
「ダメっ……」
「どうして?」

 耳元で囁かれれば、さらに伊鈴が恥ずかしそうに俯いてしまった。

 情熱的な彼は、いつも伊鈴を困らせてきた。
 交際を決めたあの夜も、それからの日々も、いつだって抗えない愛情を注がれてきたのだ。


「俺の奥さんになって」
「…………」

(嬉しいけど、まだ決められないの……。ごめんなさい、煌さん)


 立花が手を伸ばし、縁側の戸を閉め、夜風から逃れる。
 互いの熱で戸の窓が少し曇っていく。
 それでも、ひと際明るい今夜の月は、ふたりを余すところなく照らした。

 彼女は返事を避けて、揺すられながら涙をこぼす。
 月明かりに照らされた今夜の彼は、声色や白檀の香りまで、すべてが嬌艶で意地悪だった。

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