願わくは、雨にくちづけ

「もちろん、俺もそのつもりでいたよ。順を追って話すとね、元々両家の父親は学友で、年を取っても交流があった。社会人になって、俺も家業を継いで朝日屋で働いてたこともある。だけど、立花家の歴史が途絶えることをずっと気にかけてはいたんだ――」

 ゆっくりと話し出した立花の声に耳を傾ける。

 つまりはこうだった。

 朝比奈家に生を受けた彼は、当然のように未来を期待された。3歳下に〝樹(いつき)〟という弟もいて、兄弟揃って大切に育てられた。
 しかし、彼が社会人になった頃、立花家は後継者の問題に直面していた。
 歴史ある老舗が、先代を最後にその暖簾を下ろす決断を迫られていたのだ。

 親交のあった朝比奈家は、そんな立花家を気にかけながらも、他所の家のことだと手を貸そうとはしなかった。
 もちろん、どうにかできることではない。後継者を探すのも、結局は先代が決断することだったからだ。

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