願わくは、雨にくちづけ

(立花の歴史を継ぐことは、それほどに人を動かすようなことなのに……。私、煌さんのことなにも分かってなかった。ただ好きで、愛しくて、離れたくなくて……。彼の隣にいるのが相応しいか、結婚しても仕事を続けていくかどうかとか……自分のことばかり考えてた。煌さんがプロポーズしてくれたことがどれほど重いことなのか、分かってるようで分かってなかったんだ……。これじゃ、答えなんて出せるはずもないのに)

 伊鈴は恥ずかしさと、彼への申し訳なさでいっぱいになって、気づけば涙を浮かべていた。


「1年経って、また泣かれるとはね」
「……っ、ごめんなさい。でも、煌さんに悪くて」
「俺が、今の今まで黙ってたんだ。伊鈴に悩みの種を蒔くようで心苦しくて申し訳ないんだよ。でも、俺の奥さんになってくれるなら、話しておかなくちゃいけないことだし、そうならなかったとしても……」

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