願わくは、雨にくちづけ

(その時は、その時だ)

 立花もまた、伊鈴を失う想像をするだけで、心が枯れ果てていく。
 どんな考えを巡らせて、彼女が決断をするのか……強引に奪えたらいいのに、それはできそうにない。
 交際するだけならまだしも、一生にかかわる大きな決断なのだ。

 その時は、なんて覚悟を決めたようでいて、実は伊鈴がどんな返事をくれるのか、ずっと気にかけてきた。


「煌さん、話してくれてありがとうございます」

 悩みの種なんかじゃない。気付きを与えてくれた大切なことだった。
 もし、それを知らずに気持ちを固めていたら、少なからず揺らいでいたかもしれない。
 プロポーズの返事は、彼のことをもっと理解したうえでするべきだろう。


「だから、もう少しだけ悩んで考えてくれて構わないよ」
「はい」

 彼が数分ぶりにグラスを手にしたので、伊鈴も少しだけ口に含み夜景に視線を流した。

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