願わくは、雨にくちづけ
(煌さんは、生まれた家を離れてまで、立花を選ぶなんてどれほど覚悟したんだろう)
「あの、ご実家――朝比奈家とは、その後どうなんですか?」
「俺が五代目になって、他にも飲食店を経営するようになった頃かな。立花の店に父と母が来てくれたよ。少しは認めてもらえたのかもなぁ」
「弟さんは?」
「樹は、俺の代わりに毎日奮闘してるみたい。当時の俺が就いてた専務になったけど、きっと父親に日々叱咤されてると思うよ。父親は厳格な人だからね」
(両方の家と上手くやれてるなら、よかった。煌さんだって、ご両親と離れたかったわけじゃないんだもの)
伊鈴はホッとしてようやく肩の力を抜き、ワインを飲み進める。
すると、立花はおもむろに袖から小さな入れ物を取り出し、大切そうに伊鈴の前に置いた。
ブルーの革張りで、手のひらに乗るサイズのそれは、生まれて初めて目の当たりにしたものだった。