願わくは、雨にくちづけ

「なにを勿体ぶって」

 先に結婚をした彼女になら、変に妬まれることもないし、詮索されることもないだろうと思ったが、相談してすぐに返ってきたのは〝勿体ぶっている〟のひと言だった。


「別に、勿体ぶってなんかないよ。真剣に悩んでるだけ」
「彼のことが好きなんでしょ?」
「……そうだけど」
「だけど、なに?」

 伊鈴の言うことは、ことごとく千夏に打ち返される。


「好きって気持ちだけじゃ決められないこともあるの」
「立花さんと付き合ってるって聞かされた時から、伊鈴の気持ちも固まってるんだと思ってたのに」
「どうして?」
「だって、あんなに素敵な人なんだもの。誠実で心遣いが細やかで……」

 立花と葛城はビジネス上の繋がりもあって親交があり、その妻である千夏も面識があった。
 上階にある立花の店を利用することもあるらしく、伊鈴よりも先に立花を知っていた彼女の評価は確かなものだ。

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