願わくは、雨にくちづけ

「千夏は、どうして結婚を決めたの?」
「一生をかけて愛せると思ったから。それに、彼も愛してくれたし」

 間を置かずに答えた千夏の表情には、余裕がある。
 嫌味なものではなく、自分の気持ちと考えに自信があるのが伝わってくるのだ。


「立花さんも、伊鈴のことを愛してくれてるんでしょ? それを誓ってくれたんでしょ?」
「うん……」
「だったら、あまり先延ばししないで、返事しちゃった方がいいよ」

 真っ白なモヘアニットの袖を軽く捲って、バーニャカウダの野菜を摘まみ、ソースをディップして食べる彼女が言った。

 それは、伊鈴も分かっている。
 焦らなくていいと言ってはくれたけれど、何カ月も先延ばしにするような話ではない。
 だけど、立花の看板を彼と守っていくということがどれだけのことなのか、彼が覚悟して継いだ話を聞いたら、尻込みしてしまったところもあるのだ。


「千夏が仕事を辞めた理由ってなんだっけ?」
「妬みに巻き込まれたくなかったから。あとは、会社にいなくても、彼のサポートはできるって気づいたからかな」
「そっか……」

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