愛と約束



通帳と印鑑をお兄ちゃんに押し付けて、私は涙を堪えた。


「―歩」


「……」


「お前はどうしたいの?」


私の震える手を握って、お兄ちゃんは聞いてきた。


「どうし……?」


「弦刃のこと、まだ、好きなんだろ?」


やめて。


弦刃が、私のことを好きじゃないんだってば。


だから、だから―……。


「歩、お前は好きなの?嫌いなの?」


もう、限界。


「っっ、分かってる!」


「―」


「それでも、好きなんだもん!さみしかった、ひとりは嫌だった!ずっと、ずっと、私だけが好きだったんだもん!!好かれてなくても、恋人になれた時は嬉しかったんだもん!!」


「歩―……」


「遊びでも、情けでもっ!弦のそばにいたくて……私はそれでも良かったんだもんっ」


ボロボロと、涙が溢れる。


「歩」


驚いたような、お兄ちゃんの声。


「嘘でも、嬉しかった……嬉しかったのっ」


好きって、あなたからのその一言が。


愛されてないって、わかってた。


だって、子供の話はしても、結婚の話はなかった。


そういうことをしてても、"恋愛的に”好きって言われたことはなかった。


だから、だからね、答えられなかった。


『孫はまだなの―……?』


どうしてみんな、私が産むと思ってるの?


どうして、ねぇ、どうして―……。


弦刃はきっと、他にいるんだよ。


結婚したい、好きな人。


だから、私は無理だよ。


そう思うのに、好きの気持ちは消えない。


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