愛と約束
「―おせーよ。吊戯」
「電話から、そう経ってないんだが?それより、弦刃、いるんだろー?」
桐江吊戯。
正妻の子供であり、常に道具として扱われてきた不憫な男。
とても優秀で売上を向上させている彼は、いちばん嫌いなものがあって……それが、桐江の家だったりする。
大人の都合で振り回されたふたりは、二人で力を合わせて、この世界で生きぬこうとしているのだ。
で、こいつは俺の事をシスコンだの、親バカだの、気持ち悪いだのいうが、こいつの様子を見てみろ。
間違いなく、こいつはブラコンだ。
まぁ、まともな愛情を受けずに育ったんだから、そうなるのも致し方ないのだろうが。
「兄貴」
吊戯の声を聞き、台所から顔を出した弦刃。
「どうした?お前が俺に電話するなんて珍しすぎて、飛んできてしまった」
「こんなに早く来てくれるなんて……仕事で疲れてるだろうに、ごめん」
「気にすんな」
酒でも飲んでたのだろうか。
微かに、吊戯から香る酒の匂い。
そして、鳴る携帯。
目を落とすと、それは御門からの定期報告。
吊戯の意外なことが書いてあり、思わず俺は吹き出しそうになったが……
「何があって、歩と別れることになったんだ?」
とても、その空気ではなかったので口を噤む。