守りたい ただあなただけを


「そういえば今年も“Enza”患者が出たって。
街の病院が賑わってたよ。」


「そっか・・。

じゃあ僕達も早いうちに動物たちのワクチン作っておかないとね。」


「うん。はい、ニンジン貸して。」


「・・早っ・・。」


「キッカワが遅いの。」


「・・・面目ない。」



僕の倍以上の速さでじゃがいもを切り終えたリリカにニンジンを渡す。

代わりに僕はジャガイモを洗おうと貯蔵樽から水を出した。





謎の病、“Enza”がこの国に大流行したのは、
“政権交代”からしばらく経った頃だった。


何を隠そう僕も、
そしてリリカも感染者の1人。


突如として高熱が出て、
激しい頭痛に襲われる・・

という症状を訴える人が国中で続出した。


更にこの病はイヌやネコたちにも現れたみたいだったけど・・

全国の医者が治療法を知っていた。


“Enzaの奇跡”と呼ばれるこの出来事。


その時ワクチンも既に生成されつつあり、

症状を訴えた人で死者は誰1人として出ていない。




獣医になったリリカもこのワクチンを作れるようになった。


彼女が看護学習院の先生に聞いた話だと、

“ある時、匿名の研究資料が全国の医者、薬剤師、医師会へと届けられた”・・・らしい。


送り主はいまだに分かっていない。


それから感染経路についてもその研究資料には記載されておらず、

医師会が現在も研究を続けている。



そんな中途半端な資料で国が救われたという事もあり、

“Enzaの奇跡”としてこの国の伝説になりつつある。









< 426 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop