氷室の眠り姫


身支度を整えてまず主上に挨拶に伺おうとした紗葉に早速気位の高い女官たちから嫌味の洗礼を受けた。

「まぁ、ずいぶんと貧相な……てっきり新しい女官かと思ったわ」

「衣装だけ立派でも、分不相応というものね」

「たかが薬師風情の娘が、どうやって取り入ったのやら」

面と向かって言ってくる訳ではないが、確実に紗葉の耳に届くように話す女官たちに対して、紗葉に付き従っていた風音が抗議をしようとしたが、紗葉が止めた。

“薬師風情”と言われたのは許せないが、彼女たちは高官の娘であわよくば主上に召されたいと思っているのだ。
そこへ 政治に深く関わっていない薬師の娘が側室として現れれば気に食わないのも当然だろう。

紗葉は反抗することなく、女官たちに軽く黙礼をしてその場を後にした。



主上との謁見の場には、正室である爽子も同席していた。
紗葉にとってそれは何ら問題なかったが、その側にいる志野以外の女官たちが邪魔だった。

自分の役目を果たす為には彼女たちを下がらせてもらう必要があった。


形式的な挨拶を済ますと、紗葉は困惑した表情を志野に向けた。
自分から要望を口にするなど、この場ではもっての他だからだ。

それを察した志野は目配せをして女官たちを下がらせた。
不満そうな表情をしながらも大人しくいなくなってくれたことに紗葉はホッと息をついた。

「柊よりそなたのことは聞いておる。特殊な力の持ち主であると。だが、かなり無理を言っているのは自覚している…それでも」

「承知しております。どうぞ思い詰めないでください。病は気からと申します。」

主上がそんな風に考えていると分かっただけで少し救われる気がした。


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