氷室の眠り姫
紗葉は恐る恐る自分の手を確認した。
先日見た時のようなシワは今はない。
ホッと安堵の息をつくと、窓際にたたずんで月を見上げた紗葉の表情は暗い。
雲が月を隠し、部屋も暗くなると紗葉は自分が唯一持ち込んだ私物が入った箱を開いた。
そこには本当なら捨て去るべきモノが詰まっていた。
「………」
紗葉はその中からカーネリアンの裸石(ルース)を取り出した。
美しい夕陽のような赤い石は紗葉に落ち着きを取り戻させてくれる。
カーネリアンをそっと撫でて紗葉は静かに目を閉じた。
(大丈夫…わたしは大丈夫……まだやり方はあるはず)
そう思い込もうとしても、もう最終手段しか残されていないような状況だった。
(……流、もうこうして心の中でだけでもあなたの名前を呼ぶことさえ許されなくなるのかもしれない…)
紗葉は深いため息をつくと、裸石を箱に戻して誰にも見られぬよう奥にしまいこんだ。
「……近いうちに主上と話をしなくてはならないわね」
翌日、紗葉はいつものように主上の病状の経過を確認すべく主上の部屋を訪れた。
「主上……お加減はいかがですか?」
「うむ、今日は体も軽く感じる。調子も良いようだ」
「…?」
これまで紗葉の質問にも真摯に答えていた主上だったが、前向きな言葉はあまり聞くことはなかった。
なのに今朝は調子良い言葉を口にした。
(……昨日の薬は大して調合を変えた訳じゃない…ううん、まずは診てみないと)
紗葉は主上に許可を得てからその手に触れた。
「……!?」
主上の体の中を流れる気が、明らかに昨日と違うのが感じ取れた。
勿論、良い意味でだ。