氷室の眠り姫
「…主上、おそれながら、昨日はこれまでと違う何かがございましたか?」
「…?否……特に変わったことはないが」
「ではお食事でいつもと違うものを口にされましたか?」
「珍しいものは口にしていないが、どうしたのだ」
要領を得ない紗葉に主上は少し不機嫌につぶやく。
「…申し訳ありません。良好の気配を感じ取れたのですが、何がきっかけなのか分からないのです。それが分からないと、この状態を持続させれないのです」
おそらく思ってもみなかった言葉だったのだろう。
主上は目を見開くと身を乗り出してきた。
「病が良くなっているということか!?」
「…いいえ。残念ながらそうではございません。しかし、進行が止まっているように思われます。ですから昨日のことを、何気ないことまでお話いただきたいのです」
そうまで言われれば主上とて真剣に思い返すしかない。
「そう言われても、本当に…変わりなく公務をこなし、食事もいつもと大差ないものだ」
言いながら考え込んでいた主上は何かを思い出したのか、ふと顔を上げた。
「ここ数日の話でなら、昨夜は爽子を夜に召した」
「……爽子様を…」
だが、それはこれまでもあったことだ。
今度は紗葉が考え込むが、なかなか思い当たらない。
(爽子様のお召しはわたしが後宮入りしてから何度もあった…なのに、何故今回だけ…?)
そして、1つのことに思い至り勢いよく立ち上がった。
「紗葉…?どうしたのだ?」
「あの、主上……おそれながら本日はこれにて失礼してもよろしいでしょうか?急ぎ確認したいことが…」
「それは構わぬが…」
「ありがとうございます!それでは御前失礼いたします」
主上にそれ以上口を挟ませずに、紗葉は慌ててその場を後にした。