氷室の眠り姫
進行
後日、東宮直々に謝罪された紗葉は恐縮しきりだった。
東宮が主上の病のことを知ってしまったのには落ち込んでしまったが、当の東宮が前向きに成長しているのが見て取れて安堵した。
東宮に色々吹き込み、紗葉を追い落とそうとした女官たちも爽子によって粛正され、後宮もひとまず落ち着きを取り戻していた。
しかし、紗葉が主上の薬や爽子に飲ませる為に霊水を優先させている為に紗葉の口に入ることが少なくなっていた。
「紗葉様、柊様に言って送ってもらう量を増やしていただきましょう」
風音がそう言っても紗葉は首を縦には振らなかった。
「わたしが氷室の管理をしてないから、たぶん氷室の状態は良くないと思う…だからあまり無駄遣いはできないの」
「紗葉様の為に使うことが無駄なんてことはありません!紗葉様、お願いですからもう少しご自分を大切にしてください」
風音の涙ながらの言葉でも紗葉の気持ちは動かない。
「ありがとう。でもこれはわたしが決めたことよ。だから父様たちには言わないで」
「…ですが、このままでは主上や爽子様に気付かれるのでは?」
今、紗葉の体の変化は僅かなものだ。けれど、これが進行していけば誰の目から見ても明らかなものとなる。
「そうね…もしそんなことになったら体調不良で面会できないってことにしましょうか」
くすっと笑いながらわざと明るく言う紗葉に意思の固さを感じて黙りこむ?
「……紗葉様は頑固すぎます」
項垂れる風音に、くすくすと本当に可笑しそうに笑いながらも紗葉は意思を貫く。
「…大丈夫よ。何も永遠に続くことではないわ。役目が終われば宿下がりもできるでしょう。そうしたら氷室に行けばどうとでもなるわ」
「……東宮様次第ということになるのですね」
風音の東宮に対する評価は最低であった。
紗葉への態度を知っているから当然である。
「風音、声にトゲが含んでるみたいに聞こえるわよ」
紗葉が苦笑しながら諌めるが、風音にも譲れないものがあるから直すつもりはなかった。
「あの方のこれまでの行いを鑑みれば当然です」
キッパリ言い切った風音にひたすら苦笑するしかない紗葉だが、それ以上は諌めようとはしなかった。