氷室の眠り姫
「これを、紗葉が?」
「はい、後宮であったことを全て書き記してあると聞いております」
柊は眉を寄せながら、渡された手紙を読み始めた。
樹も心配そうに横からそれを伺っていた。
「……」
流に至っては口を挟むことはないものの、退く気は全くないらしく、じっと柊を見据えていた。
そんな流に気付きながらも、柊は手紙に集中した。
内容は風音が告げた通り、紗葉が過ごした後宮でのことが書き記してあった。
しかし、とある部分に触れる文章が目に入った途端、柊は表情を固まらせた。
『ー本来ならば最終的手段をとってでも主上の為に病の進行を抑えなければならないのは分かっていましたが、どうしてもわたしにはできませんでした。
それ故に爽子様を巻き込むような形で主上にわたしの力を注ぐ方法をとりました』
読み進めるうちに柊の顔色が悪くなっていった。
『結果、わたしが直接主上に力を注ぐよりも良い結果を得たと思われます。
これはあくまで結果論なので、わたしが主上や爽子様にリスクを負わせてしまったことは自覚しております。
それでも、どうしてもわたしは主上に肌を許すことができなかったのです』
紗葉の気持ちを考えれば柊も言うべき言葉を見つけられなかった。
『わたしは眠りにつきますが、次に目覚めた時に父様に会えることがあれば心穏やかに相対せれば、と思います』
最後に綴られた言葉で柊は勢いよく立ち上がった。
樹と流が驚いて柊を見上げるのに対して、風音は哀しそうにそれを見つめていた。
「風音!紗葉はどこだ!?」
「……氷室にて、お眠りになっておられます」
その言葉の意味を知っている柊と樹は完全に顔色を変えて部屋を飛び出した。
残された流は唖然としていたが、慌てて後を追った。
「風音、いったいどういうことなんだ?」
風音の案内についていきながら問いただすが、明瞭な答は返ってこない。
「氷室で眠るのは、かなりの力を消耗した時だけなのです」
それだけでは全てを理解したとは言い難かったが、柊たちの様子からして異常事態なのだという事は察せられた。
すぐにでも氷室の中に入ろうとする流を風音か直前に押し止めた。
「…今から目に入るものは全て紗葉様の決断によるものです。どうか否定はなさらないでください」
風音の言葉の意味は分からなかったが、同意しなければ通してもらえないと察して流は頷いた。