蒼い月と紅の灯火
里の襲撃
里では静かに妖狐たちが暮らしていた。
平和に、食べ物から何まで自給自足で。
里には掟があった。それは、人間とは関わらないこと。
正しく言えば、里に住んでいる者は人間とは関わらないこと。里を出てしまえば自由にしてもいいが、里に危険を及ぼす可能性がないようにとの掟だった。
『お母さん! お父さん!』
私は両親が大好きだった。
二人とも優しくて、父は里の代表で、母はその補佐をしていた。
『朱里、もし私達がいなくなっても強くいきるんだよ』
『うん! でも二人はいなくならないよ?』
『きたるべき時にだ……』
そう言った父は、何かを悟ったような顔をしていた。いま思えば、その時点で異変は起こっていたのかもしれない。
そんな平穏な日々が続いていたある日、悪夢が起きた。
大きな音と共に里から火があがる。次々に聞こえてくる仲間達の悲鳴。
『な、何が起きたの!?』
『朱里、里の裏山から逃げなさい、何もきにせずに』
『どうして!? お母さんは!?』
『人間達が襲ってきたの、ここもじきにもたなくなる』
『そんな! お母さんもお父さんも一緒だよね……?』
『ごめんな、朱里』
悲しそうな顔で私を家の裏口から出す。嫌だ、こんな別れかたしたくない。でも、それでも私一人で逃げなければならなかった。