God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
説教だらけの1行メール!
文化祭・実行委員の名簿が出来上がった。
これから怒涛の段取り作業が始まるのだが、俺達3年は……毎年の如くというか、必要以上に出張る事はなさそう。
浅枝も言っていた通り、メインからは1歩下がって見守る立場になる。
それが助かる半面、寂しくもあるから複雑だ。
委員会の顔合わせには、右川も呼んであった。
腐っても会長なんだから、そんなの当たり前なのに、やっぱりというかヤツは来ない。「アキラに呼ばれてる」とか何とか言ったけど……疑いたくはないが、アキラを都合よく言い訳に使ってるんじゃないかと思ったりする。
廊下を行くと、その右川が向こうからやって来た。
その隣に進藤も居て、相変わらず雑談に沸騰中。
呑気なもんだな。
「右川さん」と、阿木が声を掛けてしまった。成り行き上、俺も片手を上げておくけど、なんとなく、取り付く島が見当たらない。
突然、誰かの携帯が着信した。通常の着信音だったため、みんながみんな、それぞれの携帯を探り始める。
「あたしだ」と、右川が手を上げた。
「おぉ!東スポ!海川のスクープだぁ!」
右川のその一言に、進藤が頬を寄せた。
そこに阿木も吸い寄せられていく。何となく、俺も。
「あれ、沢村くんって意外と芸能人に興味あったりするの?」
進藤が茶化した。
芸能人……こっちはそれどころじゃない。
「てゆうかおまえ、海川とラインなんかやってんの?」
俺の問い掛けは、「駅前のコンビニに、三四郎の小宮が居たんだって!」と、飛び上がって喜ぶ右川の嬌声に掻き消された。
こっちの困惑におかまいなしの大喜びである。
「沢村くん。あたしも入って3人のライングループだから変な事はないよ」
進藤には、とりあえず聞こえていた。
そして俺の気持ちを察した。そして右川を……庇った。
「おまえさ、俺のライン見てるよな?最近、全然返して来ないけど」
一応、進藤の手前、穏やかに主張したつもり。
「あ、ごめんごめん」と言いながら、右川は海川に返事を打ち始めた。
「ちょ、ちょっとカズミちゃん、そういうのはヤバいってば」
進藤がやっぱり察した。
無理に笑顔を作りながらも俺に気をつかっている。右川にも。
「ヤバいって何が?」
その質問も晴天の霹靂だ。
「だから、彼氏のラインに既読スルーっていうのは」
「だから何が?」
「何がって、切ないじゃん。無視されてるみたいで」
「そうだろ?進藤はそう思うだろ?」
「ま、読んだらすぐに返信するけどね。あたしはね」
俺は大きく頷いた。
「これが普通。おまえの感覚はおかしい」
右川は不気味に沈黙を守る。
そこからスマホを乱暴に操ったと思ったら、高々とそれを掲げて、
「〝英語の長文、人のばっかり写さないで、最後までちゃんと自分でやれ〟〝議事録は俺が見た。たまには生徒会室に来いよ〟〝小論文、アキラが言ってたぞ。ちょっと短い。どうにかしろってさ〟」
怒ってるスタンプ。
睨んでるスタンプ。
〝?〟と困ってるスタンプ。
右川が読み上げたそれ、晒したそれ。
全て俺が右川にあてたラインの数々だ。
「これが普通の彼氏なの?あんたのライン、こんなのばっかじゃん。1人で完結。黒川じゃあるまいし。命令ばっかり。どう返事をすればいいっていうの。ムカつくだけだよ、こんな説教だらけの1行メール!」
阿木と進藤の前で読まれた恥ずかしさ、人の思いやりを踏みにじる信じられない言動に、怒りが噴き上げた。
あまりに厳しくて声も出ない。
「ヨリコさ、こんなの毎日もらって面白い?返事しようって気になる?沢村はアキラの回し者?いつも人の事、不真面目の原型みたいに言ってさ」
阿木も慌ててとりなそうとしたが、右川の怒りは収まりそうもない。
いつのまにか、進藤は右川からスマホを取り上げて、何やら見ていると思ったら……俺達のラインを、遡って読み込んでいる。
ため息が出た。
デリカシーが無さ過ぎる。進藤には、怒るより呆れて。
ところが、
「ね、正直に言うよ」
進藤は真っ直ぐ、右川に向き合った。
「カズミちゃんの為に言うけど……それはカズミちゃんが良くないよ。こんだけ心配してもらって、気にしてもらって、手伝ってもらって。このライン見てる限りだと、沢村くんって本当に優しいんだなって思った。これ見たらみんなもそう思うんじゃないの」
右川は驚いた顔のまま、固まったまま、進藤に見入っている。
「本当はあたしらが言わなきゃいけない事だよ。それを、沢村くんが全部肩代わりしてくれてるみたいな」
まるで別世界の言葉を聞くように、進藤を見詰めたまま、右川はピクリともしない。俺も同じだ。
「カズミちゃんは贅沢。沢村くんだよ?頭よくて優しくて人気があって、それで自分の事こんなに心配してくれる彼氏だったら言うことないじゃん。何でそんなに不満ばっかり」
俺はヤバかった。
マジ泣きそう。
今まで、阿木といい浅枝といい、女子では右川の肩を持つヤツばかり。
周りの苦労とか、男の思いやりとかプライドとか、悉く打ち砕かれてきた。
ここに来て、やっと報われて……カタルシスが俺を襲っている。
感動が胸に込み上げるとは、こういう事を言うのだ。
1番身近な進藤に裏切られ、右川は半ば呆然としている。
それ見ろ。
一発逆転満塁ホームラン。分かる人には分かる。
これで少しは俺のありがたさ、身にしみただろ。
「カズミちゃん、ごめんね。何か言い過ぎちゃったかな」と、進藤は思いやりだけは忘れずに見せた。
「ううん。平気だよ」と言いながらも、右川は立ちすくんだまま。
よっぽどショックだったと見える。
ただ一点を見つめて。
歯を食いしばるみたいに、口元をきゅっと縮めて。
程なくして、
「じゃ、ヨリコに聞くけどさ、あたしって、そんなに不真面目かな」
進藤は答えに困って、瞬きを繰り返した。
庇ってもらった事を念頭に置き、満を辞して、今度は俺が代わる。
「自分は真面目だと胸張って言えるのか。今日の顔合わせ、阿木と2人で行ってきた。昨日ラインしたよな。何で来ないんだよ。おまえ会長だぞ。来ないのは、いい加減だからだ。小論文だって進藤の半分しか書いて来ないってアキラが言ってた。それって誰が見ても不真面目以外の何者でもない」
「今日は……ずっとアキラんとこ行ってたから生徒会はできないし。あたしなんか居なくても、今までだって2人でやってたじゃん。何で今更加わらなくちゃいけないの。それもテキトーとか言われながら。小論文だって3つが限度だよ。あたし、それが精一杯で。でも自分では十分だって思ってる。ちゃんと集中して考えて3つやったと思ってる。勉強やれ、生徒会もやれ、だけど勉強で生徒会やれなかったら、いい加減て言われる」
一度声が止まった。少し声が震えて。
「アキラにも沢村にも言いたいんだけど、きれいに全部できないと、それって不真面目なの?」
言いたい事は分かる。
しかし俺は、勉強や生徒会がどうとかいうより、さっきのメールの事が頭から離れず、気が収まらない。
「海川とラインなんかやってる時間を当てれば、全部できるだろ」
阿木が、「それは」と制してくれたが、気付いてからではもう遅い。
「わかった。あたしもう誰ともラインしない。だからあんたも金輪際よこさないで!」
そう吐き捨てて、右川は走り去った。
誰も微動だにしない中、進藤の目線だけが、俺と阿木を行ったり来たり。
「カズミちゃん、泣いたりとか、してないよね?」
心配になった進藤が、我慢できずに、右川を追いかける。
俺も、すぐに後悔した。
言い過ぎた。
つい出てしまって。最後のは……余計な事だ。
「ちょっと心配しすぎじゃない?それと、極度のヤキモチと」
悔しかったけど、阿木の言う通りだと思う。
1行説教メール云々は、聞いてて厳しかった。さすがに落ち込むから……御希望通り、立ち直るまでラインは送れそうもない。
しばらくの間、俺は途方に暮れた。
「あ、そうだ」
阿木が唐突に、カバンの中をごそごそと漁り始める。
「これ。昨日の大学案内、私のカバンに忘れたでしょ」
昨日は塾が休みだった。それで急きょ、古屋先生を筆頭に阿木と重森、俺の4人で港北大学に見学に行ったのだ。行きは先生の車に乗せてもらい、帰りは車を断って、3人で電車で帰った。駅まで辿り着くのにバスを2つも乗り継いだ。それが、かなり乗る。だけど悪くない。とにかく環境がよかった。大学も綺麗で、実際見ると、ますます行きたくなる。
……言い過ぎたお詫びだな。
機嫌が直ったら、右川を学園祭の〝コレサワ〟に。
……大学見学に連れてってやろうか、と思う。
これから怒涛の段取り作業が始まるのだが、俺達3年は……毎年の如くというか、必要以上に出張る事はなさそう。
浅枝も言っていた通り、メインからは1歩下がって見守る立場になる。
それが助かる半面、寂しくもあるから複雑だ。
委員会の顔合わせには、右川も呼んであった。
腐っても会長なんだから、そんなの当たり前なのに、やっぱりというかヤツは来ない。「アキラに呼ばれてる」とか何とか言ったけど……疑いたくはないが、アキラを都合よく言い訳に使ってるんじゃないかと思ったりする。
廊下を行くと、その右川が向こうからやって来た。
その隣に進藤も居て、相変わらず雑談に沸騰中。
呑気なもんだな。
「右川さん」と、阿木が声を掛けてしまった。成り行き上、俺も片手を上げておくけど、なんとなく、取り付く島が見当たらない。
突然、誰かの携帯が着信した。通常の着信音だったため、みんながみんな、それぞれの携帯を探り始める。
「あたしだ」と、右川が手を上げた。
「おぉ!東スポ!海川のスクープだぁ!」
右川のその一言に、進藤が頬を寄せた。
そこに阿木も吸い寄せられていく。何となく、俺も。
「あれ、沢村くんって意外と芸能人に興味あったりするの?」
進藤が茶化した。
芸能人……こっちはそれどころじゃない。
「てゆうかおまえ、海川とラインなんかやってんの?」
俺の問い掛けは、「駅前のコンビニに、三四郎の小宮が居たんだって!」と、飛び上がって喜ぶ右川の嬌声に掻き消された。
こっちの困惑におかまいなしの大喜びである。
「沢村くん。あたしも入って3人のライングループだから変な事はないよ」
進藤には、とりあえず聞こえていた。
そして俺の気持ちを察した。そして右川を……庇った。
「おまえさ、俺のライン見てるよな?最近、全然返して来ないけど」
一応、進藤の手前、穏やかに主張したつもり。
「あ、ごめんごめん」と言いながら、右川は海川に返事を打ち始めた。
「ちょ、ちょっとカズミちゃん、そういうのはヤバいってば」
進藤がやっぱり察した。
無理に笑顔を作りながらも俺に気をつかっている。右川にも。
「ヤバいって何が?」
その質問も晴天の霹靂だ。
「だから、彼氏のラインに既読スルーっていうのは」
「だから何が?」
「何がって、切ないじゃん。無視されてるみたいで」
「そうだろ?進藤はそう思うだろ?」
「ま、読んだらすぐに返信するけどね。あたしはね」
俺は大きく頷いた。
「これが普通。おまえの感覚はおかしい」
右川は不気味に沈黙を守る。
そこからスマホを乱暴に操ったと思ったら、高々とそれを掲げて、
「〝英語の長文、人のばっかり写さないで、最後までちゃんと自分でやれ〟〝議事録は俺が見た。たまには生徒会室に来いよ〟〝小論文、アキラが言ってたぞ。ちょっと短い。どうにかしろってさ〟」
怒ってるスタンプ。
睨んでるスタンプ。
〝?〟と困ってるスタンプ。
右川が読み上げたそれ、晒したそれ。
全て俺が右川にあてたラインの数々だ。
「これが普通の彼氏なの?あんたのライン、こんなのばっかじゃん。1人で完結。黒川じゃあるまいし。命令ばっかり。どう返事をすればいいっていうの。ムカつくだけだよ、こんな説教だらけの1行メール!」
阿木と進藤の前で読まれた恥ずかしさ、人の思いやりを踏みにじる信じられない言動に、怒りが噴き上げた。
あまりに厳しくて声も出ない。
「ヨリコさ、こんなの毎日もらって面白い?返事しようって気になる?沢村はアキラの回し者?いつも人の事、不真面目の原型みたいに言ってさ」
阿木も慌ててとりなそうとしたが、右川の怒りは収まりそうもない。
いつのまにか、進藤は右川からスマホを取り上げて、何やら見ていると思ったら……俺達のラインを、遡って読み込んでいる。
ため息が出た。
デリカシーが無さ過ぎる。進藤には、怒るより呆れて。
ところが、
「ね、正直に言うよ」
進藤は真っ直ぐ、右川に向き合った。
「カズミちゃんの為に言うけど……それはカズミちゃんが良くないよ。こんだけ心配してもらって、気にしてもらって、手伝ってもらって。このライン見てる限りだと、沢村くんって本当に優しいんだなって思った。これ見たらみんなもそう思うんじゃないの」
右川は驚いた顔のまま、固まったまま、進藤に見入っている。
「本当はあたしらが言わなきゃいけない事だよ。それを、沢村くんが全部肩代わりしてくれてるみたいな」
まるで別世界の言葉を聞くように、進藤を見詰めたまま、右川はピクリともしない。俺も同じだ。
「カズミちゃんは贅沢。沢村くんだよ?頭よくて優しくて人気があって、それで自分の事こんなに心配してくれる彼氏だったら言うことないじゃん。何でそんなに不満ばっかり」
俺はヤバかった。
マジ泣きそう。
今まで、阿木といい浅枝といい、女子では右川の肩を持つヤツばかり。
周りの苦労とか、男の思いやりとかプライドとか、悉く打ち砕かれてきた。
ここに来て、やっと報われて……カタルシスが俺を襲っている。
感動が胸に込み上げるとは、こういう事を言うのだ。
1番身近な進藤に裏切られ、右川は半ば呆然としている。
それ見ろ。
一発逆転満塁ホームラン。分かる人には分かる。
これで少しは俺のありがたさ、身にしみただろ。
「カズミちゃん、ごめんね。何か言い過ぎちゃったかな」と、進藤は思いやりだけは忘れずに見せた。
「ううん。平気だよ」と言いながらも、右川は立ちすくんだまま。
よっぽどショックだったと見える。
ただ一点を見つめて。
歯を食いしばるみたいに、口元をきゅっと縮めて。
程なくして、
「じゃ、ヨリコに聞くけどさ、あたしって、そんなに不真面目かな」
進藤は答えに困って、瞬きを繰り返した。
庇ってもらった事を念頭に置き、満を辞して、今度は俺が代わる。
「自分は真面目だと胸張って言えるのか。今日の顔合わせ、阿木と2人で行ってきた。昨日ラインしたよな。何で来ないんだよ。おまえ会長だぞ。来ないのは、いい加減だからだ。小論文だって進藤の半分しか書いて来ないってアキラが言ってた。それって誰が見ても不真面目以外の何者でもない」
「今日は……ずっとアキラんとこ行ってたから生徒会はできないし。あたしなんか居なくても、今までだって2人でやってたじゃん。何で今更加わらなくちゃいけないの。それもテキトーとか言われながら。小論文だって3つが限度だよ。あたし、それが精一杯で。でも自分では十分だって思ってる。ちゃんと集中して考えて3つやったと思ってる。勉強やれ、生徒会もやれ、だけど勉強で生徒会やれなかったら、いい加減て言われる」
一度声が止まった。少し声が震えて。
「アキラにも沢村にも言いたいんだけど、きれいに全部できないと、それって不真面目なの?」
言いたい事は分かる。
しかし俺は、勉強や生徒会がどうとかいうより、さっきのメールの事が頭から離れず、気が収まらない。
「海川とラインなんかやってる時間を当てれば、全部できるだろ」
阿木が、「それは」と制してくれたが、気付いてからではもう遅い。
「わかった。あたしもう誰ともラインしない。だからあんたも金輪際よこさないで!」
そう吐き捨てて、右川は走り去った。
誰も微動だにしない中、進藤の目線だけが、俺と阿木を行ったり来たり。
「カズミちゃん、泣いたりとか、してないよね?」
心配になった進藤が、我慢できずに、右川を追いかける。
俺も、すぐに後悔した。
言い過ぎた。
つい出てしまって。最後のは……余計な事だ。
「ちょっと心配しすぎじゃない?それと、極度のヤキモチと」
悔しかったけど、阿木の言う通りだと思う。
1行説教メール云々は、聞いてて厳しかった。さすがに落ち込むから……御希望通り、立ち直るまでラインは送れそうもない。
しばらくの間、俺は途方に暮れた。
「あ、そうだ」
阿木が唐突に、カバンの中をごそごそと漁り始める。
「これ。昨日の大学案内、私のカバンに忘れたでしょ」
昨日は塾が休みだった。それで急きょ、古屋先生を筆頭に阿木と重森、俺の4人で港北大学に見学に行ったのだ。行きは先生の車に乗せてもらい、帰りは車を断って、3人で電車で帰った。駅まで辿り着くのにバスを2つも乗り継いだ。それが、かなり乗る。だけど悪くない。とにかく環境がよかった。大学も綺麗で、実際見ると、ますます行きたくなる。
……言い過ぎたお詫びだな。
機嫌が直ったら、右川を学園祭の〝コレサワ〟に。
……大学見学に連れてってやろうか、と思う。