God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
★★★右川ですが……ある~日♪クソ地獄
進路指導室で。
ある~日♪
重森と会ってしまった。
クソ地獄。
あいかわらずの敵意丸出し。
こっちも敵意丸出しで中指を立てたら、嬉しそうにスリ寄って来やがった。
「こないだ模試が返ってきてさ。偶然、沢村の志望校偏差値見ちゃったよ」
「まるで泥棒だね」
「あいつ、おまえと一緒んとこ辞めて、国立狙ってるぞ」
「知ってるよ、バーカ」
辞めたんじゃなくて滑り止めだろって。
いつかの怒りも手伝って、気分は最悪だ。
「沢村が国立なんて行ったら、おまえなんかアッサリ捨てられんなー」
「そだね」
「頭のいい、いい女たくさんいるからな」
「そだね」
あの日、とうとう、説教だらけの1行メール事変が勃発。
朝、駅での待ち合わせは消えた。
そういえば、最近キスとかしてなくない?いつしたっけ?
そんな記憶をぐるぐると辿る。思い出せないくらい遠くなっていた。
ケンカはしたくない。いつも思ってる。口で言うほどうまくいかないなぁ。
沢村はやっぱりというか、周りから見るとよっぽどいいヤツらしい。
何の非の打ち所も無いと、あの後ヨリコも絶賛だった。
そうなんだろう。でも納得いかない。
思えば先生も、あたしが何かフザケたことを言った時は、「沢村にチクるぞ」と決まり文句のように言う。何の弱みもない。言えばいいじゃーん。
付き合い始めたから、それをただ冷やかしてるんだと最初は思っていたけど、どうもそれだけとも言えない感じが後から襲ってきた。
のぞみちゃんは、
「沢村くんにあれだけ世話してもらったんだから。頑張りな」
と、こっちが頼みもしないのに強引に事を運んだ沢村を責める言葉は1言もない。おかげでこっちはアキラから連日のように不真面目と言われ続けているっていうのに。
まあ右川も大変だと思うけど……とか担任らしく思いやってくれてもいいんじゃないか。
その一方、原田クンは原田クンで、
「そのまま沢村にくっ付いて国立に行け」と、キレた事抜かす。
クラスメートがうっかり職員室にいたりすると、どこからともなくさっきの重森のように、右川はいつかアッサリ捨てられる発言だ。
バンドをやってるというけど話した事も無いような男子が、そういう時だけ話題に入ってきて、「♪おまえらは卒業したらストレート自然消滅、間違いない~」といつかの沢村の言葉をラップにのせて繰り返しながら、職員室でベースを弾いている。その感性を疑う。
アキラに至っては、「沢村の一時的な若気の至り」と決め付けた。
頭を鷲掴みにしてやりたい。
うまくかない原因はあたしにあるのかな?と考えてみる。
あたし、そんなに極悪?
付き合いだして変わったわけじゃないと思う。数学以外は苦手。生徒会はやってない。前からおんなじ。変わってない。それに怒るぐらいなら、何でそんなのと沢村は付き合う気になったんだろう、と不思議だった。
そう言えば〝好きだ〟と、あっさり言ってくれたな……。
「阿木と沢村ってさ、何か怪しいとか思った事ない?」
「え?……あ、忘れてた。あんたの存在を」
つーか、急に何言い出すんだって感じ。
関わり合いにもなりたくないと、あたしは無関係な大学案内を手に取って、ファイルをめくる。
「俺、沢村と同じ理数にいるけどさ、文系にいる阿木がさ、休憩時間とか行ったり来たりで。気が付けばいつも沢村と一緒にいてさ」
「同じ大学受けるからでっしょー。同じ部屋に居るあんたとは話したくないし、同じ空気も吸いたくないんだよ」
「いつだったかな。生徒会室で2人だけ。何か真剣に話してたよ。阿木が泣いてたかな」
「かな、って何?そんな演出いらないんだけど。そりゃ話すでしょ。せーとかい同士なんだから。今、色々と忙しいんでげす。もっと言うと、そんな事は毎日のようによくある事なの、でげす」
そこで重森の声が一段と低くなった。
「阿木って最近、永田の兄貴と別れたんだよな」
一瞬、ファイルをめくる手が止まる。
だけどこれは重森の悪知恵。
注意を引きたいだけの、見せ掛けの爆弾かもしれない。
「ウソくさ」
「本当だぞ!今からでも阿木に聞いて来いよ。だから修道院行くの辞めて港北大にしたんだよ」
「辞めたんじゃなくて、修道院は滑り止めだって言ってたよ」
アギングに聞いてみろとか、そこだけ真剣に言うから、ちょっと動いた。
もしかして……と思いを巡らせる。そう言えば最近、アギングと永田さんの話をしない。それだって偶然あたしが聞いてないだけかもしれないし。
生徒会を蔑ろにした事を、ここで初めて後悔する。
重森は、クッと笑った。
「阿木が、おまえに向かって全部バカ正直に話すと思ってんのか。有り得ないね。だって、2人が別れた原因は沢村にあるんだぞ」
反論の文句が途絶えてしまった。
ヤバい、と思った時にはもう遅い。
顔色を察して、重森は気を良くしたのか、
「頭悪い女だな。何で、沢村は沢山ある塾の中からあそこの塾に決めたんだ?阿木が居たからだろ。何で、突然港北大を受けるなんて言い出すんだよ。阿木が行くからだろ。大学行っちゃえば、こっちのもん。あっちは仲良く。こっちは自然消滅。阿木とは価値観合うみたいで、お互い優秀。一緒にいて楽しい。だからケンカは無用。とりあえず1ヶ月以上は続くだろうな」
「……」
「もっと言ってやろうか」
「……」
「昨日さ、塾休みだろ。放課後、沢村ってどうしてた?」
「知らないよ。あたしはバイト行ってたし」
声が出たのが不思議なくらいだ。
「バイトなんかしてる場合か。俺、見ちゃった。あいつら2人、仲良く電車乗って。隣り同士、大学案内なんかめくってさ。受験にかこつけて、どう見てもデート。どこ行ったんだろうなぁ~……午後8時」
ずらずら聞いていると、妙に1本、筋が通っている。
こんなの、2人に確認すればすぐ分かる事だ。
この、確認するという行為こそが、重森の思惑に乗っかるようで悔しい。
信じているなら、確認する必要すら無い。笑っていればいい事。
あたしは聞かなかったことに……出来るだろうか。
重森の挑発は、まるで数学の定理の証明のようだ。隙が無い。
こいつは、悪知恵に関しては頭が冴えるから、言ってる事のどこまでが本当で、どこがウソなのか聞いただけじゃ分からない。
かなりのウソがあるかもしれない。
だが、その中に小さいけど本物もあるかもしれない。
あたしは1つ見つけてしまった。
それは、沢村にもアギングにも関係ない。自分の中の真実だ。
それは小さい事だけど……あなどれないと思う。
進路指導室を後にして、午後3時の生徒会室。
行ってみると、沢村とアギングが……仲良くいた。
思いのほか、動揺。重森のせいで洗脳されかけているとしか。
2人は横に並んで話していただけ。いつもの事。何度も見慣れた光景。
とはいえ、メール事変以来、沢村とまともに顔を合わせるのは久しぶりだった。どことなくピリついたムードが漂う。
何とか気を取り直した。
まずは1つ、どうしても確認しなくちゃな事があるから。
聞かなかった事に、やっぱり出来ない。
「永田先輩って、元気かな。あたしうまくいけば来年、後輩だよー……」
沢村は、何を突然?という顔をしながらも、「うまくいきたきゃ小論文を」とそこまで言いかけて、メール事変を思い出したのか、途中で止める。
やっぱり口をついて出るのはどこまでも説教なんだな。
今はまともに聞いたら泣きたくなるから、もうやめてほしい。
あたしはずっとアギングだけを見ていた。
俯いて、その口は何も語らないまま。
「永田さんと会ってないの?そんなに勉強大変?」
「センター試験とかあるし。合格までは色々大変なんだよ」
って、沢村議長、妙にかばうじゃん。
「何それ。あたしが勉強のせいで恋人に会わないアギングを責めたとでも言いたいの」
「そんな事言ってないし」
そういう何喰わぬ顔が、最近やけに憎らしいと思う。
「右川さんてやっぱり鋭いのね」と、アギングは顔を上げた。
「黙っててごめんなさい。実は、永田くんとはもう会うこと無いと思う」
ある~日♪
重森と会ってしまった。
クソ地獄。
あいかわらずの敵意丸出し。
こっちも敵意丸出しで中指を立てたら、嬉しそうにスリ寄って来やがった。
「こないだ模試が返ってきてさ。偶然、沢村の志望校偏差値見ちゃったよ」
「まるで泥棒だね」
「あいつ、おまえと一緒んとこ辞めて、国立狙ってるぞ」
「知ってるよ、バーカ」
辞めたんじゃなくて滑り止めだろって。
いつかの怒りも手伝って、気分は最悪だ。
「沢村が国立なんて行ったら、おまえなんかアッサリ捨てられんなー」
「そだね」
「頭のいい、いい女たくさんいるからな」
「そだね」
あの日、とうとう、説教だらけの1行メール事変が勃発。
朝、駅での待ち合わせは消えた。
そういえば、最近キスとかしてなくない?いつしたっけ?
そんな記憶をぐるぐると辿る。思い出せないくらい遠くなっていた。
ケンカはしたくない。いつも思ってる。口で言うほどうまくいかないなぁ。
沢村はやっぱりというか、周りから見るとよっぽどいいヤツらしい。
何の非の打ち所も無いと、あの後ヨリコも絶賛だった。
そうなんだろう。でも納得いかない。
思えば先生も、あたしが何かフザケたことを言った時は、「沢村にチクるぞ」と決まり文句のように言う。何の弱みもない。言えばいいじゃーん。
付き合い始めたから、それをただ冷やかしてるんだと最初は思っていたけど、どうもそれだけとも言えない感じが後から襲ってきた。
のぞみちゃんは、
「沢村くんにあれだけ世話してもらったんだから。頑張りな」
と、こっちが頼みもしないのに強引に事を運んだ沢村を責める言葉は1言もない。おかげでこっちはアキラから連日のように不真面目と言われ続けているっていうのに。
まあ右川も大変だと思うけど……とか担任らしく思いやってくれてもいいんじゃないか。
その一方、原田クンは原田クンで、
「そのまま沢村にくっ付いて国立に行け」と、キレた事抜かす。
クラスメートがうっかり職員室にいたりすると、どこからともなくさっきの重森のように、右川はいつかアッサリ捨てられる発言だ。
バンドをやってるというけど話した事も無いような男子が、そういう時だけ話題に入ってきて、「♪おまえらは卒業したらストレート自然消滅、間違いない~」といつかの沢村の言葉をラップにのせて繰り返しながら、職員室でベースを弾いている。その感性を疑う。
アキラに至っては、「沢村の一時的な若気の至り」と決め付けた。
頭を鷲掴みにしてやりたい。
うまくかない原因はあたしにあるのかな?と考えてみる。
あたし、そんなに極悪?
付き合いだして変わったわけじゃないと思う。数学以外は苦手。生徒会はやってない。前からおんなじ。変わってない。それに怒るぐらいなら、何でそんなのと沢村は付き合う気になったんだろう、と不思議だった。
そう言えば〝好きだ〟と、あっさり言ってくれたな……。
「阿木と沢村ってさ、何か怪しいとか思った事ない?」
「え?……あ、忘れてた。あんたの存在を」
つーか、急に何言い出すんだって感じ。
関わり合いにもなりたくないと、あたしは無関係な大学案内を手に取って、ファイルをめくる。
「俺、沢村と同じ理数にいるけどさ、文系にいる阿木がさ、休憩時間とか行ったり来たりで。気が付けばいつも沢村と一緒にいてさ」
「同じ大学受けるからでっしょー。同じ部屋に居るあんたとは話したくないし、同じ空気も吸いたくないんだよ」
「いつだったかな。生徒会室で2人だけ。何か真剣に話してたよ。阿木が泣いてたかな」
「かな、って何?そんな演出いらないんだけど。そりゃ話すでしょ。せーとかい同士なんだから。今、色々と忙しいんでげす。もっと言うと、そんな事は毎日のようによくある事なの、でげす」
そこで重森の声が一段と低くなった。
「阿木って最近、永田の兄貴と別れたんだよな」
一瞬、ファイルをめくる手が止まる。
だけどこれは重森の悪知恵。
注意を引きたいだけの、見せ掛けの爆弾かもしれない。
「ウソくさ」
「本当だぞ!今からでも阿木に聞いて来いよ。だから修道院行くの辞めて港北大にしたんだよ」
「辞めたんじゃなくて、修道院は滑り止めだって言ってたよ」
アギングに聞いてみろとか、そこだけ真剣に言うから、ちょっと動いた。
もしかして……と思いを巡らせる。そう言えば最近、アギングと永田さんの話をしない。それだって偶然あたしが聞いてないだけかもしれないし。
生徒会を蔑ろにした事を、ここで初めて後悔する。
重森は、クッと笑った。
「阿木が、おまえに向かって全部バカ正直に話すと思ってんのか。有り得ないね。だって、2人が別れた原因は沢村にあるんだぞ」
反論の文句が途絶えてしまった。
ヤバい、と思った時にはもう遅い。
顔色を察して、重森は気を良くしたのか、
「頭悪い女だな。何で、沢村は沢山ある塾の中からあそこの塾に決めたんだ?阿木が居たからだろ。何で、突然港北大を受けるなんて言い出すんだよ。阿木が行くからだろ。大学行っちゃえば、こっちのもん。あっちは仲良く。こっちは自然消滅。阿木とは価値観合うみたいで、お互い優秀。一緒にいて楽しい。だからケンカは無用。とりあえず1ヶ月以上は続くだろうな」
「……」
「もっと言ってやろうか」
「……」
「昨日さ、塾休みだろ。放課後、沢村ってどうしてた?」
「知らないよ。あたしはバイト行ってたし」
声が出たのが不思議なくらいだ。
「バイトなんかしてる場合か。俺、見ちゃった。あいつら2人、仲良く電車乗って。隣り同士、大学案内なんかめくってさ。受験にかこつけて、どう見てもデート。どこ行ったんだろうなぁ~……午後8時」
ずらずら聞いていると、妙に1本、筋が通っている。
こんなの、2人に確認すればすぐ分かる事だ。
この、確認するという行為こそが、重森の思惑に乗っかるようで悔しい。
信じているなら、確認する必要すら無い。笑っていればいい事。
あたしは聞かなかったことに……出来るだろうか。
重森の挑発は、まるで数学の定理の証明のようだ。隙が無い。
こいつは、悪知恵に関しては頭が冴えるから、言ってる事のどこまでが本当で、どこがウソなのか聞いただけじゃ分からない。
かなりのウソがあるかもしれない。
だが、その中に小さいけど本物もあるかもしれない。
あたしは1つ見つけてしまった。
それは、沢村にもアギングにも関係ない。自分の中の真実だ。
それは小さい事だけど……あなどれないと思う。
進路指導室を後にして、午後3時の生徒会室。
行ってみると、沢村とアギングが……仲良くいた。
思いのほか、動揺。重森のせいで洗脳されかけているとしか。
2人は横に並んで話していただけ。いつもの事。何度も見慣れた光景。
とはいえ、メール事変以来、沢村とまともに顔を合わせるのは久しぶりだった。どことなくピリついたムードが漂う。
何とか気を取り直した。
まずは1つ、どうしても確認しなくちゃな事があるから。
聞かなかった事に、やっぱり出来ない。
「永田先輩って、元気かな。あたしうまくいけば来年、後輩だよー……」
沢村は、何を突然?という顔をしながらも、「うまくいきたきゃ小論文を」とそこまで言いかけて、メール事変を思い出したのか、途中で止める。
やっぱり口をついて出るのはどこまでも説教なんだな。
今はまともに聞いたら泣きたくなるから、もうやめてほしい。
あたしはずっとアギングだけを見ていた。
俯いて、その口は何も語らないまま。
「永田さんと会ってないの?そんなに勉強大変?」
「センター試験とかあるし。合格までは色々大変なんだよ」
って、沢村議長、妙にかばうじゃん。
「何それ。あたしが勉強のせいで恋人に会わないアギングを責めたとでも言いたいの」
「そんな事言ってないし」
そういう何喰わぬ顔が、最近やけに憎らしいと思う。
「右川さんてやっぱり鋭いのね」と、アギングは顔を上げた。
「黙っててごめんなさい。実は、永田くんとはもう会うこと無いと思う」