God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
「彼女のカズミちゃんに」
朝は4時に起きる。
というか、自動的に目が覚める。
自分が朝型かどうかは分からないが、目覚めの頭がクリアな時間なら、覚え事や問題に集中できるような気がする。
目覚めたらノンストップ、生きるために必要な時間以外、全て勉強に使う。
もう、半分フラフラ。
疲れもピークに来ていて、何だかいつも眠い。今なら、どこでも寝れる。
休憩時間。何かを待つ間。座った時。いや、立っていてもそれはもう、いつも何度でも……ちょっとでも空いた時間には目を閉じて。
「せめて食べたい物を食べる!」
ノリは睡眠不足を栄養で補うという愚策に励んでいた。
焼きそばパン。夜食のラーメン。チョコバナナ。厚切りポテチ。
「そりゃ、太るよなぁ」と、ノリは溜め息をつく。
3キロ増えたり減ったりを繰り返していると言った。
「視力も落ちるし。つーか、とにかく目が疲れる」と、俺も項垂れる。
映画も部活も我慢して、俺達は面倒くさい事ばかりに立ち向かう。
……これって一体何のため?
俺達は無言で見詰め合った。
こうして、謎の一瞬が生まれる訳だ。受験あるある、かもしれない。
何度も湧き上がる愚問を押し殺して。
「そういう余計な事を考える時間があったら……俺は、寝る」
「僕はメンチカツ・サンドを食べようかな」
「……俺も食いたくなってきた」
周囲に点在する同じような輩が、一緒になって仕切りと頷いた。
「あのさ」
ノリは急に改まったかと思ったら、「大丈夫?その……右川さんと」
辺りを気にしながら囁いた。
1行メール事件以来、朝は待ち合わせていない。
ノリには早速気付かれていた。
「いつものケンカ。いつもいつもケンカ。変わんねーな。俺ら」
「仲好い証拠。って言いたいけど、それは仲直りしてこそ、だからね」
こういう時、思うのだ。こういう時、ノリは上から目線で先輩面をする。
「だから何だよ。俺が謝れとでも?」
「だって、右川さんが謝るって想像つかないし」
一体ノリは誰の味方なのか。受験のストレスも手伝って、たまに爆発したくなる。「そのうち、どうにかなるよ」と、どこかで聞いたような気安めで、俺はその場を後にした。(というか、濁した。)
放課後は、塾に直行。そして土日は1日中、塾に閉じこもる。
日曜日の授業の後、相談室に呼ばれて、古屋先生と向き合った。
「こないだの模試、戻ってきたよ。ちょっと座ろうか」
自分より先に先生が見る。
当たり前の事だが、目の前で一斉に晒されて正直厳しい。
「沢村くんは多分、大丈夫」
「本当ですか」
「同じ問題が出るわけじゃないから、後は当日の事だけど。行けると思う」       
緊張が一気に解けて、椅子に体ごと、もたれ込んだ。
こういう瞬間でも無いと、報われない。
「まだまだ苦手はあるみたいだから、最後まで気を抜くなよ」
「はい」
古屋先生が笑ったら、こっちもやっと笑える。
「センター試験は、当然行くよね?」
「はい」
古屋先生は微笑みながら、うんうんと頷いた。
「彼女のカズミちゃんに報告してあげたら?」
今度は鼻血が吹き出そうだった。それ誰?そういうキャラじゃない。
「誰から聞きました?」
その……右川の事。
「まぁ何ていうか。ちょっとね。重森くんもそんな事言ってたかな。彼はずいぶん宣伝してるよね」
「重森は、右川に色々ヤラれてますから」
名前を出した事がきっかけになって、古屋先生に右川の事を話した。
志望校を突然変えてしまったけど、笑って許してくれた事。
重森との因縁対決には、先生はツボって何度も咳き込む。
呼吸が落ち着いたと思ったら、
「可愛いの?」
どう言ったらいいのか。
森畑とは違う。
まともな大人の前で、普通じゃないんです、とか言えない気がした。
「別にいいけど。可愛いんだろうなーと勝手に思っただけだから」
俺を見てそう思ったと言うなら救われた気がする。右川を見たら、俺がまともな人間かどうかを含めて、そんな事は想像もつかないはずだ。
「ま、一緒にいても別れるやつは別れるし、離れても続くやつは続くよ」
いつかの、右川のような事を言ってるなと思った。
右川の場合は、こっちが忘れ去られるのが確実のような気がする。
ふと、阿木が浮かんだ。
永田さんと、まさかそんな事になっていたとは……。
さすがの右川も、珍しくちょっと可哀相なくらいに動揺していた。
全て受け入れているという態度の阿木を見て、それ以上に何も言えず、俺は雰囲気を飛ばそうとちょっと文化祭の話をして。
右川に「たまにはこっちも手伝えよ」と、教室の割り振り表を渡した所、いつものように毒づくことは無く、妙に素直に従っていた。
トロかったけど、まあそれはいい。
それだけ、かなりの衝撃だったと見えた。
その後は右川も少し気を取り直したのか、阿木と穏やかに何でもない話に弾んで……意外と、阿木に気をつかっていたように見える。
それを見ながら、阿木には悪いが、これで右川も少しは危機感持つかもしれないと思った事も事実だ。また、一緒に仲良く登校できる日も近い。そう信じて疑わない。もう少しの我慢だな。
気が付けば……古屋先生は、俺の顔をじーっと覗きこんで笑っている。
受験と同時進行で彼女の事にとらわれている……見透かされているのだ。
俺みたいなの、誰かと同じで手に取るように簡単に分かるんだと思った。
いたたまれない。
大人なんだから、察してください。
部屋を早々に飛び出した。
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