God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
一緒に居たくない
右川が登校して来ない。
ゆうべから降り続いた雨が、今朝になってもまだ止まない。
通学時間にピークを迎えて、思いがけない大雨になった。
「地球が泣いてるよ。どうにかしろよ。議長ぉ」と、陸上部がグラウンドが使えないと文句をブッ込んできたが、無言という威力でもって追い払う。
こっちはそれ所じゃ無い。
1時間目が始まっても、右川が姿を現さない。
今朝1番。俺は思い切って、『話がある。いつもの時間に駅で待ってるから』と、あの〝説教だらけの1行メール〟事件以来のラインを送った。
しかし返事が返って来ない。既読にすら、ならなかった。
まさか、拒否られてる?
そこまでじゃないと信じたいけど、まさか、何かあったとか。
「うりゃッ!議長ッ!陸上と野球をどうにかしろよッ!体育館が溜まって溜まってイッちゃうだろがよッ!」
永田の咆哮をも無視して、俺は午前中を悶々と過ごした。
今日は。
今度という今度は、素通りできない案件がある。
2時間目が始まる頃になって、右川はプイとやってきた。
席に着き、いつものように海川と話し始める。
まるで何もなかったように。そう、いつも通りに見えた。
俺は思い切って、右川の所まで行くと、
「おまえ、何で来ないの」
「ちょっと、色々あって」
「色々って何だよ。仮病なんか使ってもムダだからな。全然元気そうじゃないか」
「元気だよ。ズルだもん」
信じられない答えだ。
「ズルとかやってる場合か。つーか、こういう事は返事しろよ」
「さっき見たんだよ。ライン来てると思ってなかったから。ごめん。本当色々あって」
謝ればいいってもんじゃない。
側に居た海川が、戸惑いながら、こちらを見ている。
向こう周囲も「「「なんだなんだ」」」と、聞き耳を立てていた。
黒川は笑っていたし、笑ってはいないが永田も見ている。ノリだけが……。
「ちょっと、こっち来い」
廊下に出た。
生徒はまばらに居るが、教室の中よりはマシだろう。
誰かに聞かれるとか、もうそんな事にかまっていられなかった。
「こないだのアレ何だよ。おまえ誕生日、1月だろ」
「そうだよ。今頃気付いたの。つーか。逆ギレ?意味分かんない。あたしの生まれ月すら知らなかったくせに」
「今回は俺、恥かいた。適当に答えるなっていつも言ってんだろ。誕生日も知らないなんて、やっぱりおまえらはちゃんと付き合ってないとか言われんだぞ」
「またテキトーとか言って……彼氏にいつもいつもそんな事ばかり言われてるのを見たら周りだって、こいつらヤバいって思うよ。自分の態度こそ考え直したら」
「人の態度をどうこう言えんのか。学校フケて来たと思ったらすぐに海川なんかと馴れ合って。そっちの方がよっぽどそれらしいじゃないか。メールのやり取りするぐらいだ。とっても仲良しだな」
また海川を出した。ちょっとやり過ぎたと思ったが、もう引き返せない。
右川はそのまま、何も言わないまま押し黙る。
窓の外、雨音がはっきり聞こえて……こんな所で言い合いが止まる事は予測していなかった。
右川は、下から俺を見上げて。
というか、睨みつけ。
その口元は震えて。
何か言おうとして、一度、声を詰まらせた。
次の瞬間、
「あんたこそ誰かと仲良しじゃん!ああ誤解しないでね。あたし嬉しいよ!あたしといて説教ばっかりで目つき悪くなるより、真面目なあの子とニコニコいてくれるほうが見てて気持ちいいし。あたしが不真面目でいい加減でテキトーだから周りも認めてくれないとか、その子だったら全然そんな事無いもんね。同じ塾行って同じ大学行ったら、もう邪魔なあたしも居ないし!」
右川は大粒の涙を流した。
表情を一切変えず、瞳から大粒の涙がぽろぽろと流れる。
涙の筈だ。雨じゃなく。
そこからまた何か言おうとして、呼吸が邪魔する。
涙が口の中に入って、それを手で拭った。
コントロールの利かない涙。呼吸。言葉。
右川も俺も、それを持て余している。
壁に貼り付いたかと思うと、その目頭を何度も腕で拭った。
やがて、その場に座り込む。
まるで他人を眺めているようだった。これほどの女子の大泣きを、今まで見た事が無い。山下さんに失恋した時は、こうもあったかと想像が付く。
こっちはこれ以上、怒る気力を削がれてしまった。
マジギレの大ケンカになったら2度と引き返せない。それを警戒しながら追求するつもりだったけど、今はもう、為す術が見つからない。
事の追求がどんどん後回しになったとしても。泣きっぷりが激し過ぎて。
廊下、教室の窓、みんなが見ている。
偶然、通り掛かった輩は、「おいおい」「おしっこすんなよ」「ワンワン。躾が出来てねーぞ、議長」
次々と浴びせて、通り過ぎた。
ここは場所を変えて、落ち着いて、今はどうにか右川の気持ちをなだめて、話を。今はそれしか。
やがて、
「あたし、もうあんたと一緒にいたくない」
これまでの年月が音を立てて崩れるとは、こういう事か。
「付き合うの、辞めようよ。あたしもう辞めたい」
ゆうべから降り続いた雨が、今朝になってもまだ止まない。
通学時間にピークを迎えて、思いがけない大雨になった。
「地球が泣いてるよ。どうにかしろよ。議長ぉ」と、陸上部がグラウンドが使えないと文句をブッ込んできたが、無言という威力でもって追い払う。
こっちはそれ所じゃ無い。
1時間目が始まっても、右川が姿を現さない。
今朝1番。俺は思い切って、『話がある。いつもの時間に駅で待ってるから』と、あの〝説教だらけの1行メール〟事件以来のラインを送った。
しかし返事が返って来ない。既読にすら、ならなかった。
まさか、拒否られてる?
そこまでじゃないと信じたいけど、まさか、何かあったとか。
「うりゃッ!議長ッ!陸上と野球をどうにかしろよッ!体育館が溜まって溜まってイッちゃうだろがよッ!」
永田の咆哮をも無視して、俺は午前中を悶々と過ごした。
今日は。
今度という今度は、素通りできない案件がある。
2時間目が始まる頃になって、右川はプイとやってきた。
席に着き、いつものように海川と話し始める。
まるで何もなかったように。そう、いつも通りに見えた。
俺は思い切って、右川の所まで行くと、
「おまえ、何で来ないの」
「ちょっと、色々あって」
「色々って何だよ。仮病なんか使ってもムダだからな。全然元気そうじゃないか」
「元気だよ。ズルだもん」
信じられない答えだ。
「ズルとかやってる場合か。つーか、こういう事は返事しろよ」
「さっき見たんだよ。ライン来てると思ってなかったから。ごめん。本当色々あって」
謝ればいいってもんじゃない。
側に居た海川が、戸惑いながら、こちらを見ている。
向こう周囲も「「「なんだなんだ」」」と、聞き耳を立てていた。
黒川は笑っていたし、笑ってはいないが永田も見ている。ノリだけが……。
「ちょっと、こっち来い」
廊下に出た。
生徒はまばらに居るが、教室の中よりはマシだろう。
誰かに聞かれるとか、もうそんな事にかまっていられなかった。
「こないだのアレ何だよ。おまえ誕生日、1月だろ」
「そうだよ。今頃気付いたの。つーか。逆ギレ?意味分かんない。あたしの生まれ月すら知らなかったくせに」
「今回は俺、恥かいた。適当に答えるなっていつも言ってんだろ。誕生日も知らないなんて、やっぱりおまえらはちゃんと付き合ってないとか言われんだぞ」
「またテキトーとか言って……彼氏にいつもいつもそんな事ばかり言われてるのを見たら周りだって、こいつらヤバいって思うよ。自分の態度こそ考え直したら」
「人の態度をどうこう言えんのか。学校フケて来たと思ったらすぐに海川なんかと馴れ合って。そっちの方がよっぽどそれらしいじゃないか。メールのやり取りするぐらいだ。とっても仲良しだな」
また海川を出した。ちょっとやり過ぎたと思ったが、もう引き返せない。
右川はそのまま、何も言わないまま押し黙る。
窓の外、雨音がはっきり聞こえて……こんな所で言い合いが止まる事は予測していなかった。
右川は、下から俺を見上げて。
というか、睨みつけ。
その口元は震えて。
何か言おうとして、一度、声を詰まらせた。
次の瞬間、
「あんたこそ誰かと仲良しじゃん!ああ誤解しないでね。あたし嬉しいよ!あたしといて説教ばっかりで目つき悪くなるより、真面目なあの子とニコニコいてくれるほうが見てて気持ちいいし。あたしが不真面目でいい加減でテキトーだから周りも認めてくれないとか、その子だったら全然そんな事無いもんね。同じ塾行って同じ大学行ったら、もう邪魔なあたしも居ないし!」
右川は大粒の涙を流した。
表情を一切変えず、瞳から大粒の涙がぽろぽろと流れる。
涙の筈だ。雨じゃなく。
そこからまた何か言おうとして、呼吸が邪魔する。
涙が口の中に入って、それを手で拭った。
コントロールの利かない涙。呼吸。言葉。
右川も俺も、それを持て余している。
壁に貼り付いたかと思うと、その目頭を何度も腕で拭った。
やがて、その場に座り込む。
まるで他人を眺めているようだった。これほどの女子の大泣きを、今まで見た事が無い。山下さんに失恋した時は、こうもあったかと想像が付く。
こっちはこれ以上、怒る気力を削がれてしまった。
マジギレの大ケンカになったら2度と引き返せない。それを警戒しながら追求するつもりだったけど、今はもう、為す術が見つからない。
事の追求がどんどん後回しになったとしても。泣きっぷりが激し過ぎて。
廊下、教室の窓、みんなが見ている。
偶然、通り掛かった輩は、「おいおい」「おしっこすんなよ」「ワンワン。躾が出来てねーぞ、議長」
次々と浴びせて、通り過ぎた。
ここは場所を変えて、落ち着いて、今はどうにか右川の気持ちをなだめて、話を。今はそれしか。
やがて、
「あたし、もうあんたと一緒にいたくない」
これまでの年月が音を立てて崩れるとは、こういう事か。
「付き合うの、辞めようよ。あたしもう辞めたい」