God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
★★★右川ですが……「あなたの担当、浅野ハルミです」
放課後は、毎日、保健室。
「何となく責任を感じるから」というアギングと、「じゃ、あたしは友人代表で」というヨリコが、ほぼ毎日のように治療に付き添ってくれた。
包帯を外し、洗浄、消毒、薬を付けて、また包帯。
ぎゃぐいぐぐっぎゃげぎゅげんげぎぇぎげじゅがげぐぇ!!!
「先生、麻酔をっ!?」
毎回、あたしは半分死んだ。
左半分は脳ミソと共に陥落寸前。なのにギャラリーはずっと笑っている。
まさかと思うけど、ここで受験のストレス発散してんじゃないのっ!?
「傷はたぶん残るよ。顔じゃなくてよかったよね。そんな事になったら沢村くんに申し訳ないよ。これしばらく毎日やるからね」なんて、保健室のミチコ先生は、治療も言葉も容赦ないんだ、これが。
まさかと思うけど、これで日ごろのアラサー欲求不満をはらしてんじゃないのっ!(だったら許す。)
しばらくの間、半分死んだようになってベッドに横たわる。
「ちょっと部活を回って来るからね」という先生を見送り、「あたしは、そろそろアキラんとこ行くかな」と、立ち上がったヨリコには、「んじゃ、これよろしく」と、自分の提出分を渡した。
自動的に、保健室には、あたしとアギングの2人だけになる。
ところで。
「同じ塾。同じ大学志望。真面目な子。ここまでは、私の事よね」
直球で来たーーーっ!
あたしはゴクリと生唾を飲み込む。
「だけど、ニコニコはしてない。少なくとも、沢村くんに愛嬌を振りまいた事は無いから。右川さんには悪いけど」
「いや、そこはもう、どうでも」
「塾でニコニコしてると言えば……」と、アギングは首を傾けた。
「1人、沢村くんが親しくしてるらしい子はいるけど」
「そうなの?」
それは聞いた事が無かった。
重森の言った事、あながち嘘とも言えない部分、キターーーッ!
思えば、アギングと永田さんの事は本当だった。
あいつの嘘には、たまに本当が紛れ込むからタチが悪いんだ。
「同じ塾。同じ大学志望。沢村くんと凄く仲良くて、いつも楽しそうにお喋り。ニコニコしてる。だけどあの子が真面目とは……言い難いかな。私から見て、かなり異性に積極的に見えるけど」
TWICE女子みたいな、と頭に浮かんだ。
同時に、そういう邪悪な誘惑に気を好くしてホイホイ引っ掛かる沢村を、どう言って、おちょくって、追及してやろうかと……ていうか、普通にムカつく。あたしと海川をあれだけ追い詰めて、自分は何なのよ。
アギングは、くくくと笑った。
「それ、男子だけどね」
「って、アギングも相当タチが悪いよ!?」
「って、これ位いいでしょ。引き合いに出されたお返しよ」
アギングは、けたけた笑った。
普段のアギングからは想像もつかない大笑いだったので、それが珍しくて、しばらく観察して。
「ごめんなさい。最近弾ける事が無くて。発散させてもらったかも」
でしょうね。ラリってるよ。
あたしは観念して、全部を正直に話した。
重森に言われた事。
あの言葉はあの場合、確かにアギングを意味して吐いた事。
酷い事をしたと思っている。でも2人を心から疑ってはいなくて。
自分の中に見つけた真実も、洗いざらい。
「賢いやり方とは言えないわね」
あたしは、うん、と頷いた。
「正直、右川さんほどの人がどうしちゃったのかなって思った。あそこまで感情的になるのも変だし。それくらい、沢村くんと上手くいかない事が不安だって事かな」
アギングは、他の子と全然違うと思った。
その言葉が静かに降りてくる。
「アギングってさ、沢村と一緒にいて……楽しい?」
「楽しい?」と、アギングは首を傾げた。
「それはちょっと、しっくり来ないわね。さっきも言ったけど、ニコニコした事無いから」
あたしも訊いてて、しっくり来なかった。
沢村とアギングは、そういう楽しさとは違う気がする。困難を乗り越えてきた同志というか……楽しさというよりも充実、みたいな。
「沢村くんて、どこか遠回りなのよね」と、アギングは前振りして、
「確かに真面目だし、しっかりしてる。男子の中では割と話のわかる人。なのに肝心な事は、たまに遅れてやってくる気がする」
「子供っぽいって事?」
「そういう事になるかな。でも他の男子に比べたら、全然良い方で」
「中味が45だから」
それ言っていいのかどうか迷ったわ、とアギングは悪戯っぽく笑った。
そこから、生徒会で決め事に悩んでいる時の話になり、
「結論は出た。私も、その通りだと思う。だからみんな沢村くんに賛成。なのに、いつまでも同じ事に迷ってるのよね。あれだけ議論を重ねたら、もうやれるだけの事はやったんだから腹括れないの?って思うし」
あたしも、アギングに頷いた。
「見落としがあるんじゃないか。聞いてない事があるんじゃないか。面白いっていうか、迷惑っていうか。あれだけ頭の良い人が、どうして、そんなムダな遠回りをするんだろう」
自分の事より、周りを優先するからかも……。
「好いように考えたら、ね」と、アギングは添えた。
「そう思うのは、アギングがお姉さんだからでしょ」
沢村だけを言わない。他の男子のやる事なす事が遅いと感じる。面倒くさいと感じる。
あたしがそれを言うと、
「ま、付き合ってる頃の永田くんと比べちゃ悪いかしらね」と笑った。
アギングと話してる間、まるで自分が1年に戻ったような錯覚が起こる。
あの頃、男子でも女子でも先輩たちと話すのが面白くて、何の遠慮もなく先輩の教室を訪れた。自分の少し前を行くガイドさん。
同じ事が、アギングにも感じられる。TWICE女子と同じ同級生とは思えない。いつも落ち着いて、その余裕が心地よかった。
「だから、沢村くんと一緒に居て楽しいと言うより、後を付いてくる弟が心配って感じかな」
うん。分かる。
2人を見ていると、そんな感じだった。
だから全然疑わなかったし、ヤキモチも無かったんだよね。
「右川さんの方が余裕をもって見てあげればいいじゃない」
「えー……出来るかな、そんな高度な」
「出来るでしょ。だって、いつもあなたの方がちょっと先を行ってる」
「うっそ」
「沢村くんは遠回り。右川さんは先を行く。たまには待ってあげたら?いつかは追い付くでしょ」
「そんな風に思ってたの?」
それって、びっくり。
「だって右川さん、いつだって余裕でしょ?」
いつも、あたしの方が足りなくて、怒られてばかりだと思っていた。
そこに先生が戻ってきた。
すっかり落ち着いたので、そこで先生にお礼を言って帰途に着く。
腕はまだヒリヒリした。お風呂は地獄だな。
「明日も、かよ♪」
最後の音符は半音下がった。それを聞いてアギングはまた笑う。
2人の帰り道。
大学の学園祭の事で盛り上がり、そのままカフェドクリエでおしゃべりの続きをする事になった。そう言えば、やっちまった大火傷のあの日も、アギングが一緒にカフェしてくれたな。
治療して着替えた後、あたしは名前入りの赤いジャージ姿に先生から借りた黒いカーディガンで、恥ずかしい事この上なかった。だけど、アギングはそんなのと同席しても全然平気みたいで。
やっぱりお姉さんだと思った。これが松倉やヨリコなら、「ちょっとぉ、側に来ないでよぉ」「カズミちゃん、恥ずぅーい」と笑われながらド突かれて、挙句に他人の振りだと思う。
今日は、永田さんとの事も色々と話してくれた。
あんまり多くは語らないけれど、2人にしか分からない辛さとかケジメとか出発とか、あったんだと想像力を働かせた。
アギングは、あたしのくだらない話でも楽しそうに聞いてくれる。
思えば、沢村とアギングも、あたしと海川みたいに、入学してから以降の長い付き合い同士という事になるな。きっと沢村も楽しかったに違いない。
沢村の本音はその先にある、ということ。
遅れるけど、ちゃんとやってくると信じていればいい。
少し先を行くあたしが、沢村を待ってやろうと思える気がする。
今日、待ってやりたいと思いましたっ♪
「何となく責任を感じるから」というアギングと、「じゃ、あたしは友人代表で」というヨリコが、ほぼ毎日のように治療に付き添ってくれた。
包帯を外し、洗浄、消毒、薬を付けて、また包帯。
ぎゃぐいぐぐっぎゃげぎゅげんげぎぇぎげじゅがげぐぇ!!!
「先生、麻酔をっ!?」
毎回、あたしは半分死んだ。
左半分は脳ミソと共に陥落寸前。なのにギャラリーはずっと笑っている。
まさかと思うけど、ここで受験のストレス発散してんじゃないのっ!?
「傷はたぶん残るよ。顔じゃなくてよかったよね。そんな事になったら沢村くんに申し訳ないよ。これしばらく毎日やるからね」なんて、保健室のミチコ先生は、治療も言葉も容赦ないんだ、これが。
まさかと思うけど、これで日ごろのアラサー欲求不満をはらしてんじゃないのっ!(だったら許す。)
しばらくの間、半分死んだようになってベッドに横たわる。
「ちょっと部活を回って来るからね」という先生を見送り、「あたしは、そろそろアキラんとこ行くかな」と、立ち上がったヨリコには、「んじゃ、これよろしく」と、自分の提出分を渡した。
自動的に、保健室には、あたしとアギングの2人だけになる。
ところで。
「同じ塾。同じ大学志望。真面目な子。ここまでは、私の事よね」
直球で来たーーーっ!
あたしはゴクリと生唾を飲み込む。
「だけど、ニコニコはしてない。少なくとも、沢村くんに愛嬌を振りまいた事は無いから。右川さんには悪いけど」
「いや、そこはもう、どうでも」
「塾でニコニコしてると言えば……」と、アギングは首を傾けた。
「1人、沢村くんが親しくしてるらしい子はいるけど」
「そうなの?」
それは聞いた事が無かった。
重森の言った事、あながち嘘とも言えない部分、キターーーッ!
思えば、アギングと永田さんの事は本当だった。
あいつの嘘には、たまに本当が紛れ込むからタチが悪いんだ。
「同じ塾。同じ大学志望。沢村くんと凄く仲良くて、いつも楽しそうにお喋り。ニコニコしてる。だけどあの子が真面目とは……言い難いかな。私から見て、かなり異性に積極的に見えるけど」
TWICE女子みたいな、と頭に浮かんだ。
同時に、そういう邪悪な誘惑に気を好くしてホイホイ引っ掛かる沢村を、どう言って、おちょくって、追及してやろうかと……ていうか、普通にムカつく。あたしと海川をあれだけ追い詰めて、自分は何なのよ。
アギングは、くくくと笑った。
「それ、男子だけどね」
「って、アギングも相当タチが悪いよ!?」
「って、これ位いいでしょ。引き合いに出されたお返しよ」
アギングは、けたけた笑った。
普段のアギングからは想像もつかない大笑いだったので、それが珍しくて、しばらく観察して。
「ごめんなさい。最近弾ける事が無くて。発散させてもらったかも」
でしょうね。ラリってるよ。
あたしは観念して、全部を正直に話した。
重森に言われた事。
あの言葉はあの場合、確かにアギングを意味して吐いた事。
酷い事をしたと思っている。でも2人を心から疑ってはいなくて。
自分の中に見つけた真実も、洗いざらい。
「賢いやり方とは言えないわね」
あたしは、うん、と頷いた。
「正直、右川さんほどの人がどうしちゃったのかなって思った。あそこまで感情的になるのも変だし。それくらい、沢村くんと上手くいかない事が不安だって事かな」
アギングは、他の子と全然違うと思った。
その言葉が静かに降りてくる。
「アギングってさ、沢村と一緒にいて……楽しい?」
「楽しい?」と、アギングは首を傾げた。
「それはちょっと、しっくり来ないわね。さっきも言ったけど、ニコニコした事無いから」
あたしも訊いてて、しっくり来なかった。
沢村とアギングは、そういう楽しさとは違う気がする。困難を乗り越えてきた同志というか……楽しさというよりも充実、みたいな。
「沢村くんて、どこか遠回りなのよね」と、アギングは前振りして、
「確かに真面目だし、しっかりしてる。男子の中では割と話のわかる人。なのに肝心な事は、たまに遅れてやってくる気がする」
「子供っぽいって事?」
「そういう事になるかな。でも他の男子に比べたら、全然良い方で」
「中味が45だから」
それ言っていいのかどうか迷ったわ、とアギングは悪戯っぽく笑った。
そこから、生徒会で決め事に悩んでいる時の話になり、
「結論は出た。私も、その通りだと思う。だからみんな沢村くんに賛成。なのに、いつまでも同じ事に迷ってるのよね。あれだけ議論を重ねたら、もうやれるだけの事はやったんだから腹括れないの?って思うし」
あたしも、アギングに頷いた。
「見落としがあるんじゃないか。聞いてない事があるんじゃないか。面白いっていうか、迷惑っていうか。あれだけ頭の良い人が、どうして、そんなムダな遠回りをするんだろう」
自分の事より、周りを優先するからかも……。
「好いように考えたら、ね」と、アギングは添えた。
「そう思うのは、アギングがお姉さんだからでしょ」
沢村だけを言わない。他の男子のやる事なす事が遅いと感じる。面倒くさいと感じる。
あたしがそれを言うと、
「ま、付き合ってる頃の永田くんと比べちゃ悪いかしらね」と笑った。
アギングと話してる間、まるで自分が1年に戻ったような錯覚が起こる。
あの頃、男子でも女子でも先輩たちと話すのが面白くて、何の遠慮もなく先輩の教室を訪れた。自分の少し前を行くガイドさん。
同じ事が、アギングにも感じられる。TWICE女子と同じ同級生とは思えない。いつも落ち着いて、その余裕が心地よかった。
「だから、沢村くんと一緒に居て楽しいと言うより、後を付いてくる弟が心配って感じかな」
うん。分かる。
2人を見ていると、そんな感じだった。
だから全然疑わなかったし、ヤキモチも無かったんだよね。
「右川さんの方が余裕をもって見てあげればいいじゃない」
「えー……出来るかな、そんな高度な」
「出来るでしょ。だって、いつもあなたの方がちょっと先を行ってる」
「うっそ」
「沢村くんは遠回り。右川さんは先を行く。たまには待ってあげたら?いつかは追い付くでしょ」
「そんな風に思ってたの?」
それって、びっくり。
「だって右川さん、いつだって余裕でしょ?」
いつも、あたしの方が足りなくて、怒られてばかりだと思っていた。
そこに先生が戻ってきた。
すっかり落ち着いたので、そこで先生にお礼を言って帰途に着く。
腕はまだヒリヒリした。お風呂は地獄だな。
「明日も、かよ♪」
最後の音符は半音下がった。それを聞いてアギングはまた笑う。
2人の帰り道。
大学の学園祭の事で盛り上がり、そのままカフェドクリエでおしゃべりの続きをする事になった。そう言えば、やっちまった大火傷のあの日も、アギングが一緒にカフェしてくれたな。
治療して着替えた後、あたしは名前入りの赤いジャージ姿に先生から借りた黒いカーディガンで、恥ずかしい事この上なかった。だけど、アギングはそんなのと同席しても全然平気みたいで。
やっぱりお姉さんだと思った。これが松倉やヨリコなら、「ちょっとぉ、側に来ないでよぉ」「カズミちゃん、恥ずぅーい」と笑われながらド突かれて、挙句に他人の振りだと思う。
今日は、永田さんとの事も色々と話してくれた。
あんまり多くは語らないけれど、2人にしか分からない辛さとかケジメとか出発とか、あったんだと想像力を働かせた。
アギングは、あたしのくだらない話でも楽しそうに聞いてくれる。
思えば、沢村とアギングも、あたしと海川みたいに、入学してから以降の長い付き合い同士という事になるな。きっと沢村も楽しかったに違いない。
沢村の本音はその先にある、ということ。
遅れるけど、ちゃんとやってくると信じていればいい。
少し先を行くあたしが、沢村を待ってやろうと思える気がする。
今日、待ってやりたいと思いましたっ♪