God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
★★★右川ですが……しょうがねぇな!
沢村は、ぴくりともしなかった。
座ったまま、目の前まっすぐこちらを見て、
「は?」
と、それだけ言った。
キレたハルミちゃんと同じ反応だった。全然、嬉しそうな顔に見えない。
ふと、いつかの駅のホーム、最悪の夜が浮かんだ。
まるで、あの時と同じシチュエーションだ。
「何だそれ」
ここで沢村がいきなり立ち上がった。
肩に乗せた両手は、自動的に弾かれる。
あたしの目の前には、大きな壁が、超不機嫌で立ちはだかった。
「何が大丈夫なんだよ。ここに来て、何で上からモノ言ってんの」
それ、あんただよ……と、ここでそれを言ったらマジギレだ。
「今まで、どっちが散々待ってやったと思ってんの」
これに関して言えば、アギングは間違っていた事になる。
沢村は遠回りで遅れてしまうのではなかった。どうも、あたしを待っていたらしい。それが的外れ。ついでに遠回り。結果として遅れた。となると、やっぱ悪いのは待たせたあたしの方だという事になるな。
「ま、待たせてごめん」
そう言うしかない。
「で、結論は」
「何の?」
「話が途中だろ。さっさと言えよ」
そうか、そう言えば途中だった。
沢村はイライラしている。
これ以上、怒らせないように……あたしは考えに考えた。
ここは、真面目な事を言った方がいい場面だから。
……だよね?そういう場合だよね?
「いつまで待たせんだよ」
「分かってるからっ。もうちょっと」
ちゃんと考えなきゃ。
ちゃんと。ちゃんと。こいつ、好きだからな。ちゃんと、が。
いや、だから!
「あたし……ダメだ」
「は?」
「ちゃんと考えなきゃって、ずっと考えてる」
沢村は呆れかえったように、深く、長いため息をついた。
チッと舌打ちまでした。
荒っぽくアタマを掻いて、最高に目つきの悪い顔で。
「ったく、しょうがねぇな!」
お。
それは、なんだか懐かしい響き。
デジャ・ヴ。
こんな事あるんだろうか。思えばその背景も、今と全く同じだった。
この店で、他の人の口から、何度も何度も、それを聞いた事がある。
それがフラッシュバックで甦った。
思わず笑ったら、突然、こっちの襟元をグイッと掴まれた。
ここは笑っちゃいけない所!シバかれる!
それほど怖い顔した沢村に、次の瞬間、あたしは強く抱きしめられた。
まるで体当りするみたいに唇を奪われる。
それはまるで、初めてした時みたいに……。
初めて沢村に奪われたのも、この店だったな。
1つ1つが今までの歴史をさかのぼり、あたし達は、まるで最初からやり直している。遠回りもここまでくると、一周回って元通りなのか。
そういう事か。
……お待たせしました。
大丈夫。もう2度と、遅れません(と、思うよ)。
外は、もうすっかり暗くなり。
このお店は、今月中に取り壊される。
アキちゃんは、ラーメンはもう作らない。
新しい家を建てるのかもしれないと思ったけど、アキちゃんはそんなにお金持ってないから。
「奥さん、突き抜けた人らしい」と、沢村が言った。
あたしは1度もその顔を拝んだことがない。今さら感が拭えない。奥さんは突き抜けた金持ちがいいな……願いを込めて、勝手に決めつけた。
それからも、芸能人の事とか、ヨリコの恋話とか。どうでもいい事ばかりの、おなじみの会話になる。
沢村が芸能界の話なんて知らなくて当然だ。いつかの突っ込みは、ちょっと拷問だったと反省。知らないことを責めたくない。知らなくても、解かろうとしてくれたと思った。気のせいじゃなく、沢村も楽しそうで。
特に、ヨリコの胸の話は大成功だと思う。
腐っても45、男子は男子だ。次はもっと突っ込んで聞いてやろう。
嫌な説教も前より聞かなくなった。
そうなると、何か貰い損ねてるような気になるから不思議である。
ハルミちゃんの説教祭りは、それどころじゃない。あれに比べたら、沢村の説教なんか〝呟き〟だ。
それは、何の記念日でもない日の事。
沢村が、「買っちまっただろ」と、9月用のプレゼントを渡された。
思わずアザ笑ったら、
「これ以上、恥かかせんな」と、頭をくしゃくしゃにされる。
開けてみると、小さい石の付いたペンダントで、沢村にしては趣味がいい。
「よしこに買ってもらったの?かっけー」
「んな訳ねーだろ。色々処分したら金が出来たんだよ」
はい、50点。
まー、受験生にバイトしろとは酷な話だから、それはそれでいいかな。
「恥かいたついでに、分かんないから阿木に頼んだ。ネットで選んでもらったけど、どうだか」
自分が選んで文句言われたくないからって、アギングを利用するとは。
極悪だね。
だーかーらー、そういう所が遠回りとか言われちゃうんだと思った。
頑張れ、45。
帰り道、電車の席には座れなかった。
窓から外を見ていたら、沢村からラインが来る。
『誰かに聞かれたら、俺から貰ったってちゃんと言えよ』
らしい。
ちゃんと付き合ってるってみんなに晒せ!って言えばいいのにね。
しんどい遠回り人生は順調。これも立派な命令メールだな。反省してない。やっぱり返事は送る気になれませーん。
そこへ、またラインが来た。
『スルーすんな。今日中にスタンプぐらいは寄越せ。返事よこさないと、家まで行くぞ』
ゲッと思わず声が出た。
やりかねないから怖いよ。ヤベぇ奴。そこは遠回りしてくれよって。
外を見たら、窓にこちら側が写った。首にかかる石は小さな光を放つ。
考えて1言だけ返信した。
『今、アキちゃんと一緒に、沢村の家の前に居まーす♪』
そこから1分置いて、『ウソー♪』と送る。
けけけ♪
きっと大慌てで飛び出したに違いない。せーぜー恥をかけ。
これに懲りて、もう何が何でも返事を寄越せとは言わないかも。
返信も、なかなか奥が深いな。
電車の中でヘラヘラ笑う。
沢村で遊んでしまった。
明日、会うのが楽しみ。
卒業まで、あと5カ月。
<Fin>
.:* *・゚ o☆.:*★゚゚..★ ☆o。*・゚ o☆.:*゚.★:*゚:.゚ o☆.:*゚
第12話 予告。
.:*゚.★.:。:. ☆o。★.:* *・゚ o☆.★:*゚゚:.。*・゚ o☆.:*゚ o☆
らす♪
再びの、文化祭。
1年クラスで、男子と女子が対立。
生徒会は、その仲裁に乗り出した!
お楽しみに♪
座ったまま、目の前まっすぐこちらを見て、
「は?」
と、それだけ言った。
キレたハルミちゃんと同じ反応だった。全然、嬉しそうな顔に見えない。
ふと、いつかの駅のホーム、最悪の夜が浮かんだ。
まるで、あの時と同じシチュエーションだ。
「何だそれ」
ここで沢村がいきなり立ち上がった。
肩に乗せた両手は、自動的に弾かれる。
あたしの目の前には、大きな壁が、超不機嫌で立ちはだかった。
「何が大丈夫なんだよ。ここに来て、何で上からモノ言ってんの」
それ、あんただよ……と、ここでそれを言ったらマジギレだ。
「今まで、どっちが散々待ってやったと思ってんの」
これに関して言えば、アギングは間違っていた事になる。
沢村は遠回りで遅れてしまうのではなかった。どうも、あたしを待っていたらしい。それが的外れ。ついでに遠回り。結果として遅れた。となると、やっぱ悪いのは待たせたあたしの方だという事になるな。
「ま、待たせてごめん」
そう言うしかない。
「で、結論は」
「何の?」
「話が途中だろ。さっさと言えよ」
そうか、そう言えば途中だった。
沢村はイライラしている。
これ以上、怒らせないように……あたしは考えに考えた。
ここは、真面目な事を言った方がいい場面だから。
……だよね?そういう場合だよね?
「いつまで待たせんだよ」
「分かってるからっ。もうちょっと」
ちゃんと考えなきゃ。
ちゃんと。ちゃんと。こいつ、好きだからな。ちゃんと、が。
いや、だから!
「あたし……ダメだ」
「は?」
「ちゃんと考えなきゃって、ずっと考えてる」
沢村は呆れかえったように、深く、長いため息をついた。
チッと舌打ちまでした。
荒っぽくアタマを掻いて、最高に目つきの悪い顔で。
「ったく、しょうがねぇな!」
お。
それは、なんだか懐かしい響き。
デジャ・ヴ。
こんな事あるんだろうか。思えばその背景も、今と全く同じだった。
この店で、他の人の口から、何度も何度も、それを聞いた事がある。
それがフラッシュバックで甦った。
思わず笑ったら、突然、こっちの襟元をグイッと掴まれた。
ここは笑っちゃいけない所!シバかれる!
それほど怖い顔した沢村に、次の瞬間、あたしは強く抱きしめられた。
まるで体当りするみたいに唇を奪われる。
それはまるで、初めてした時みたいに……。
初めて沢村に奪われたのも、この店だったな。
1つ1つが今までの歴史をさかのぼり、あたし達は、まるで最初からやり直している。遠回りもここまでくると、一周回って元通りなのか。
そういう事か。
……お待たせしました。
大丈夫。もう2度と、遅れません(と、思うよ)。
外は、もうすっかり暗くなり。
このお店は、今月中に取り壊される。
アキちゃんは、ラーメンはもう作らない。
新しい家を建てるのかもしれないと思ったけど、アキちゃんはそんなにお金持ってないから。
「奥さん、突き抜けた人らしい」と、沢村が言った。
あたしは1度もその顔を拝んだことがない。今さら感が拭えない。奥さんは突き抜けた金持ちがいいな……願いを込めて、勝手に決めつけた。
それからも、芸能人の事とか、ヨリコの恋話とか。どうでもいい事ばかりの、おなじみの会話になる。
沢村が芸能界の話なんて知らなくて当然だ。いつかの突っ込みは、ちょっと拷問だったと反省。知らないことを責めたくない。知らなくても、解かろうとしてくれたと思った。気のせいじゃなく、沢村も楽しそうで。
特に、ヨリコの胸の話は大成功だと思う。
腐っても45、男子は男子だ。次はもっと突っ込んで聞いてやろう。
嫌な説教も前より聞かなくなった。
そうなると、何か貰い損ねてるような気になるから不思議である。
ハルミちゃんの説教祭りは、それどころじゃない。あれに比べたら、沢村の説教なんか〝呟き〟だ。
それは、何の記念日でもない日の事。
沢村が、「買っちまっただろ」と、9月用のプレゼントを渡された。
思わずアザ笑ったら、
「これ以上、恥かかせんな」と、頭をくしゃくしゃにされる。
開けてみると、小さい石の付いたペンダントで、沢村にしては趣味がいい。
「よしこに買ってもらったの?かっけー」
「んな訳ねーだろ。色々処分したら金が出来たんだよ」
はい、50点。
まー、受験生にバイトしろとは酷な話だから、それはそれでいいかな。
「恥かいたついでに、分かんないから阿木に頼んだ。ネットで選んでもらったけど、どうだか」
自分が選んで文句言われたくないからって、アギングを利用するとは。
極悪だね。
だーかーらー、そういう所が遠回りとか言われちゃうんだと思った。
頑張れ、45。
帰り道、電車の席には座れなかった。
窓から外を見ていたら、沢村からラインが来る。
『誰かに聞かれたら、俺から貰ったってちゃんと言えよ』
らしい。
ちゃんと付き合ってるってみんなに晒せ!って言えばいいのにね。
しんどい遠回り人生は順調。これも立派な命令メールだな。反省してない。やっぱり返事は送る気になれませーん。
そこへ、またラインが来た。
『スルーすんな。今日中にスタンプぐらいは寄越せ。返事よこさないと、家まで行くぞ』
ゲッと思わず声が出た。
やりかねないから怖いよ。ヤベぇ奴。そこは遠回りしてくれよって。
外を見たら、窓にこちら側が写った。首にかかる石は小さな光を放つ。
考えて1言だけ返信した。
『今、アキちゃんと一緒に、沢村の家の前に居まーす♪』
そこから1分置いて、『ウソー♪』と送る。
けけけ♪
きっと大慌てで飛び出したに違いない。せーぜー恥をかけ。
これに懲りて、もう何が何でも返事を寄越せとは言わないかも。
返信も、なかなか奥が深いな。
電車の中でヘラヘラ笑う。
沢村で遊んでしまった。
明日、会うのが楽しみ。
卒業まで、あと5カ月。
<Fin>
.:* *・゚ o☆.:*★゚゚..★ ☆o。*・゚ o☆.:*゚.★:*゚:.゚ o☆.:*゚
第12話 予告。
.:*゚.★.:。:. ☆o。★.:* *・゚ o☆.★:*゚゚:.。*・゚ o☆.:*゚ o☆
らす♪
再びの、文化祭。
1年クラスで、男子と女子が対立。
生徒会は、その仲裁に乗り出した!
お楽しみに♪