God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
付き合ってる。
と言っても、桂木のように休憩時間になると側にやって来るといったような可愛気は、右川には一切無かった。
ある日。4時間目が終わって、お昼休み。
今回の席替えで、俺の席は窓際で後ろの方に追いやられた。
右川と見れば……チビという事も手伝って、斜め遥か前あたりにいる。いつもの、にゃははは!は聞こえるが、何を話しているかまでは分からない。
気が付けば俺の周りには、いつものように同中の仲間が集まった。
中学時代からバンドを組んで仲良くやってる奴らが、今年は最後の文化祭だからツインボーカルで行くとか何とかで沸いている。
俺は、頭の意識半分を英語のリスニングに預け、半分は寝ながら、仲間のやりとりをつまんでいた。
横からバレー部キャプテンの工藤が割って入り、「どうせならもっと人数増やしてAAAでもやれば」と突いた。「U.S.A.やりなよ。そしたらみんな一緒に踊れるじゃん」と、藤谷をはじめとする賑やかな女子軍団も盛り上がっている。「僕?無理無理!」と尻込みするノリを生け贄に、ダンス祭り。そこら中で手拍子と歌が始まった。
そういうのは右川も喜びそうだな、と、俺もぼんやり考える。
程なくして、周りは昼メシに散った。
右川は、まだまだ「にゃははは!」が続く。
こちらに向かってくる気配は無い。
あきらめて目を閉じた。窓際は、今日も日差しが強い。9月なのに。
眠い。
受験生だけど……落ちた。
どれぐらい寝たのか、ふと意識が戻る。
そのまま体は起こさず、机に突っ伏したままで周りの声に耳を傾けた。
何を買ったか、どこで食べるか、といった女子の声がしたので、お昼休みの時間は思ったより、まだそんなに経ってないと知る。
遠くでまだ右川の声もしていた。進藤と話している。
「ちょっとカズミちゃん、昨日のメールの、ドトールにいた芸能人て誰?」
「それ。あたしはよく知らないんだけど。サッカー選手とか言ってたよ」
「うん。横浜FCの選手だった。僕、家も知ってるんだ」
海川ユウタ。
朝礼で右川と盛り上がっていた、男子。
聞いていると、店の新商品、新しいスポット、お買い得情報、続々とそんな話題を提供している。色々と詳しい。幾つかインプットさせてもらった。
ドトールにサッカー選手がいたのか!……いや、それはいい。
右川はメールをマメに打つほうじゃないと思っていた。
だが仲間内では頻繁にやり取りをしているようだ。
昨日ラインを送った俺にはまだその返事が無い。どうせ会うんだからとあまり気には留めていなかったけど……話題の違いもあるから一概に責められないが、あまりにも蔑ろじゃないかと少々ムッとする。
そのサッカー選手は横浜FCのメンバーか!……いや、それはいい。
1ヶ月、色々あった黒川と、まるで何事も無かったように、右川は自然に話をする。そんな性質は以前からあった。黒川とは何の変哲もない普通の会話だが、楽しいかどうかは別として、俺と話す内容と比べて大きな違いはない。だが海川ユウタとは……かなり話が弾んでいると見た。
聞いてると、ほとんどが芸能人の話。
俺は、最近はテレビなんか見ている暇がない。
というか、今までも好きで見るというより、弟がいつも点けているので自然と目に入るだけである。そういう方向は、はっきり疎い。
右川もそれは承知しているのか、2人で話す時にその話題は無かったな。
放課後はすぐに塾とバイトに分かれてしまうから、特別長い話はできない。
気が付けば、俺の周りで騒ぐ女子軍団の方が、右川よりも結果長い時間話している。
こんなので、本当に付き合ってると言えるんだろうか。
思えば、付き合い始めだって、あれは交際の申し込みなのか、土俵で取っ組み合ったのか、判別が付かない。
友人、クラスメート、忠実な議長、ケンカだけ仲間。俺は多分どれか。
それは付き合っていてもいなくても、大して変わらない。
周りが笑ってかわしていくのも頷ける。
あの夏の日、進路を変更した事を報告した時。
右川はちょっと考えていたが、思った通りというか、ほんとアッサリと、
「国立、受けたいんでしょ?受けりゃいいじゃん」
だった。
「はいはい。ちゃんと、聞きましたー。あんた好きだもんね。ちゃんと」
だった。
深刻になられても困ると思ったが、あんまりサッパリしすぎて腹が立つ。
同じ大学で楽しいキャンパスライフを送る筈だったのに……という落胆は、右川には微塵も感じられない。
教室の声が少なくなった。
このクラスのほとんどは、外や部室で食べる傾向がある。
「切手がほしいから、松倉んとこに行ってくるね」という右川の声を最後に、話は終わったようだ。
俺は、確実に松倉以下だと知った。
切手、大量に持ってるのに。
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