God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
もうそろそろ授業が始まる。
学食の生徒が次の授業の準備に、ザワつき始めた。
「あたしもう行くね」
藤谷は、マンガを読んでいる右川を眺め、失笑……去って行った。
やれやれと聞こえた気がする。俺もそう思う。
藤谷のあの感じでは、こちらに都合よく宣伝してくれる気がしない。
その時、近くのテーブルに、賑やかな団体の女子が座った。委員会などで、割とよく見かける1年生である。
「今日って、おまえバイト休みだよな」
「うん」
「じゃ、どっか行くか!」
敢えて、大声を出した。
狙い通り、前の団体で、何人かが振り返ってこちらを見る。
「塾は?勉強しなくていいの」
「今日は休講。たまにはいいだろ」
「模試があるでしょ。アギングが言ってた。議長に危機感あんのかね♪」
ムッとしたが、前の団体を意識して我慢した。
「とりあえず、おまえ、どこ行きたい?」
「沢村さ、あたしの誕生日って当然!……知ってるよね?」
話題が突然変わった。右川の声が急に大きくなって、それに気を取られる。
話題を遮られた事にもムッときて、返事に気をつかう余裕がなかった。
「言わないのに知る訳ないだろ」
前の女子の1人がズバリはっきりとこちらを見た。
ヤバいぞ。
あれ、いつだっけ?
「9月10日だよん♪」
そこで、別の衝撃が走った。
「こないだ!?」
あんまり驚いて手元が狂った。
新しいテキストに不用意な横線がぴゅーっと走る。
「はーい♪こないだ17歳になりましたぁ」と、右川は陽気に手を上げた。
「笑う所じゃねーし。言えよ、そういう事は」
「聞かれてないのに自分から言うわけないでしょ。それイヤらしいもん」
「俺ら、付き合ってんだよな。それ言わないって、それまずいだろ」
「それな。それそれな。そうだよね。付き合ってんだからねっ」
「当たり前だ」
目的をすっかり忘れて大声を上げてしまった。
投げる物が無かったからいいようなものの。
付き合ってると言いながらケンカ。誕生日を知らないとか、お別れを裏付ける危ういやり取りをガンガンやってしまい、これでは右川とは長続きしないだろうと周りに宣伝する結果になった気がする。
作戦失敗。
「塾って、どう♪」
また強引に、平然と話が変わった。
「え?ああ、まあ普通に」
「あたしも行ってみようかな。英語だけでもさ」
「みんな真剣だからな。いい加減なのがいると怒られるぞ」
「またまたまたまた!何度も!いい加減とか!言ってばっかり!」
右川は、これでもか!と言わんばかりにまくしたてた。
マジで怒った様子にも見えない事から、これは嫌がらせだ。
分かってやってるとしか思えない。
賑やかな団体は、居心地の悪さを感じたのか、早々に立ち去る。
それを見届けた所で、もう我慢できないちょっと言わせろ今日は!
……と、向き直った時、右川がいつになく気弱そうに、「ねぇ」と下から顔色を窺う。
何だよ?
「さっきの子ってバレー部だよね」
「藤谷な」
「いつも思うんだけど、なんか目がきつくない?」
「化粧してっから、そう見えるんだろ」
勉強してるから、ではない事は確かだ。
「つーか、化粧が下手だからでしょ。韓流に憧れてるのは分かるけどさ、あの色、似合ってなくね?誰の血ィ吸ったのかよって。誰も言ってあげないの?てゆうか、アイラインと一緒に本性が滲みでてるよね」
「それ言うんじゃない」
俺の仲間で、それを言えるヤツは居ない。
藤谷は、根は良いヤツなんだが、どこか女王様気質な所がある。否定される事を何より嫌がる。右川の言うように、本性、気の強さは折り紙つきだ。
そこで右川は、「あ、いいものあげる♪」と何やら小さな袋を取り出した。
「まさか、ギョウザ」
「んなワケないでしょ。お菓子だよ。ちゃんと、作ってきたからねーん。彼氏のために♪」
「マジで」
取り出してみると、ビスケット?クッキー?そんなものが出てきた。
まるで買ったみたいな完成度だったので、かなり驚く。
「おまえ、こんなの作れんの」
「当たり前に当たり前でしょ。アキちゃんにどんだけ尽くしたと思ってんの。誕生日でしょ。クリスマスでしょ。バレンタインでしょ。それかける10年分だよ」
「マメだな」
「おかげで女子力はこんなもんよ」
「いや、凄い。これ凄い。マジで」
俺はお菓子の包みをしげしげと眺めた。
右川は、えへへ♪と得意そうに笑う。
悪くない。
俺達、それらしくなってきたじゃないか。
「こっちは休みもバイトで、なかなか一緒にいられる時間が無いからさ。これぐらいはね。家でテレビでも見ながら食べて」
「勉強しながら、じゃねーのかよ」
ラッピングの周り、微かに甘い匂いが漂う。
お菓子ばっかり喰ってるから、おまえはいつもそういう匂いがするんだ……と思い込んでいた頃を懐かしく思い出した。
「そういや、おまえって俺の誕生日知ってるの」
俺は見逃さなかった。
右川は〝ヤバい〟と肩を震わせ、ふわふわと目を泳がせる。
それは誕生日を思いだそうと懸命になるというより、どう言ってここを言い逃れようかと企む態度だ。
「5月だよね♪」
「……うん」
5月合ってたー!と、心の中で大喝采。大喜び。多分、まぐれ当たり。
それは手に取るように分かった。
だが、これで俺の追求が終わると思ったら大間違いだ。
「5月の、いつ?」
「知らない。食べた事ない」
これは即答。
にゃははは!と、右川は笑った。
「マジかよー、ははは!」
って、笑って済むと思ったら、それも大間違いだからな!
学食の生徒が次の授業の準備に、ザワつき始めた。
「あたしもう行くね」
藤谷は、マンガを読んでいる右川を眺め、失笑……去って行った。
やれやれと聞こえた気がする。俺もそう思う。
藤谷のあの感じでは、こちらに都合よく宣伝してくれる気がしない。
その時、近くのテーブルに、賑やかな団体の女子が座った。委員会などで、割とよく見かける1年生である。
「今日って、おまえバイト休みだよな」
「うん」
「じゃ、どっか行くか!」
敢えて、大声を出した。
狙い通り、前の団体で、何人かが振り返ってこちらを見る。
「塾は?勉強しなくていいの」
「今日は休講。たまにはいいだろ」
「模試があるでしょ。アギングが言ってた。議長に危機感あんのかね♪」
ムッとしたが、前の団体を意識して我慢した。
「とりあえず、おまえ、どこ行きたい?」
「沢村さ、あたしの誕生日って当然!……知ってるよね?」
話題が突然変わった。右川の声が急に大きくなって、それに気を取られる。
話題を遮られた事にもムッときて、返事に気をつかう余裕がなかった。
「言わないのに知る訳ないだろ」
前の女子の1人がズバリはっきりとこちらを見た。
ヤバいぞ。
あれ、いつだっけ?
「9月10日だよん♪」
そこで、別の衝撃が走った。
「こないだ!?」
あんまり驚いて手元が狂った。
新しいテキストに不用意な横線がぴゅーっと走る。
「はーい♪こないだ17歳になりましたぁ」と、右川は陽気に手を上げた。
「笑う所じゃねーし。言えよ、そういう事は」
「聞かれてないのに自分から言うわけないでしょ。それイヤらしいもん」
「俺ら、付き合ってんだよな。それ言わないって、それまずいだろ」
「それな。それそれな。そうだよね。付き合ってんだからねっ」
「当たり前だ」
目的をすっかり忘れて大声を上げてしまった。
投げる物が無かったからいいようなものの。
付き合ってると言いながらケンカ。誕生日を知らないとか、お別れを裏付ける危ういやり取りをガンガンやってしまい、これでは右川とは長続きしないだろうと周りに宣伝する結果になった気がする。
作戦失敗。
「塾って、どう♪」
また強引に、平然と話が変わった。
「え?ああ、まあ普通に」
「あたしも行ってみようかな。英語だけでもさ」
「みんな真剣だからな。いい加減なのがいると怒られるぞ」
「またまたまたまた!何度も!いい加減とか!言ってばっかり!」
右川は、これでもか!と言わんばかりにまくしたてた。
マジで怒った様子にも見えない事から、これは嫌がらせだ。
分かってやってるとしか思えない。
賑やかな団体は、居心地の悪さを感じたのか、早々に立ち去る。
それを見届けた所で、もう我慢できないちょっと言わせろ今日は!
……と、向き直った時、右川がいつになく気弱そうに、「ねぇ」と下から顔色を窺う。
何だよ?
「さっきの子ってバレー部だよね」
「藤谷な」
「いつも思うんだけど、なんか目がきつくない?」
「化粧してっから、そう見えるんだろ」
勉強してるから、ではない事は確かだ。
「つーか、化粧が下手だからでしょ。韓流に憧れてるのは分かるけどさ、あの色、似合ってなくね?誰の血ィ吸ったのかよって。誰も言ってあげないの?てゆうか、アイラインと一緒に本性が滲みでてるよね」
「それ言うんじゃない」
俺の仲間で、それを言えるヤツは居ない。
藤谷は、根は良いヤツなんだが、どこか女王様気質な所がある。否定される事を何より嫌がる。右川の言うように、本性、気の強さは折り紙つきだ。
そこで右川は、「あ、いいものあげる♪」と何やら小さな袋を取り出した。
「まさか、ギョウザ」
「んなワケないでしょ。お菓子だよ。ちゃんと、作ってきたからねーん。彼氏のために♪」
「マジで」
取り出してみると、ビスケット?クッキー?そんなものが出てきた。
まるで買ったみたいな完成度だったので、かなり驚く。
「おまえ、こんなの作れんの」
「当たり前に当たり前でしょ。アキちゃんにどんだけ尽くしたと思ってんの。誕生日でしょ。クリスマスでしょ。バレンタインでしょ。それかける10年分だよ」
「マメだな」
「おかげで女子力はこんなもんよ」
「いや、凄い。これ凄い。マジで」
俺はお菓子の包みをしげしげと眺めた。
右川は、えへへ♪と得意そうに笑う。
悪くない。
俺達、それらしくなってきたじゃないか。
「こっちは休みもバイトで、なかなか一緒にいられる時間が無いからさ。これぐらいはね。家でテレビでも見ながら食べて」
「勉強しながら、じゃねーのかよ」
ラッピングの周り、微かに甘い匂いが漂う。
お菓子ばっかり喰ってるから、おまえはいつもそういう匂いがするんだ……と思い込んでいた頃を懐かしく思い出した。
「そういや、おまえって俺の誕生日知ってるの」
俺は見逃さなかった。
右川は〝ヤバい〟と肩を震わせ、ふわふわと目を泳がせる。
それは誕生日を思いだそうと懸命になるというより、どう言ってここを言い逃れようかと企む態度だ。
「5月だよね♪」
「……うん」
5月合ってたー!と、心の中で大喝采。大喜び。多分、まぐれ当たり。
それは手に取るように分かった。
だが、これで俺の追求が終わると思ったら大間違いだ。
「5月の、いつ?」
「知らない。食べた事ない」
これは即答。
にゃははは!と、右川は笑った。
「マジかよー、ははは!」
って、笑って済むと思ったら、それも大間違いだからな!