God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
5月15日だ。
俺の誕生日は、すっかり過ぎている。次は卒業後にやってくる。
やっぱりその程度かと思ったが、自分も右川の誕生日を知らなかっただけに責められない。
右川の9月10日。
思わず舌打ちが出る。これも来年だな。いや、ついこないだの事と思えば、この程度の時差は許容範囲と捉えて、まだ間に合うかもしれない。
聞いてると、やっぱりと言うか、山下さんには色々と世話を焼いたらしかった。誕生日も知らないなんて、俺と山下さんと扱いが全然違うだろ!と責めたい所だが、食い物をもらっておいてそれも言えないし。
とりあえず、俺は貰った訳だ。何の記念日でもない今日という日に。
放課後、生徒会室に向かう途中、右川から貰ったビスケットを広げてみる。
チョコレートとバニラ味。
凝った作りという程のものではないが、ここまで売り物らしさを再現できる事が不思議に思えた。
「やっぱ店で買ったんじゃねーか」
哀しい性だけど、ついどこかを疑ってしまう。
恐る恐る食ってみた。普通に、当たり前に美味い。
毒は入ってない……何て酷い彼氏だろう。
罪滅ぼしという訳でもないが、珍しく右川が物なんかくれるから、過ぎたとはいえ誕生日くらい何かやるか、と前向きに考えよう。
生徒会室に入った。双浜は、文化祭を10月に控えている。まだ余裕はあるとはいえ、分かってる事は早めにやっておくに越したことはない。
阿木は今日、文系クラスで講義がある。
俺は今日、塾は休みだ。真木は吹奏楽の練習に出ていた。
右川はいない。
今日、バイトは無いはずだが、授業が終わるとすぐにどこかに消えた。
迂闊だった。放課後デートが決まらないなら、引っ張ってでも、ここへ連れてくればよかった。
浅枝と桂木が居て、何かの引換券をパソコンでデザインしている。締め切りに追われている訳でもないので、雑談しながら楽しそうに作業は続いた。
「今年は最後の文化祭じゃないですか。仕事はなんとか私達でやりますから、桂木さんは教室とか見て歩いてくださいね」
「ありがと」と、桂木は神妙に頭を下げて、
「あたしは京都に行かないと。もしかしたらその日は居ないかもしれない。前日から行くしね」
「早いな」と、こっちは思わず溜め息が出る。
「早く楽になりたいなーっと」
推薦入試。
もし決まったら、仲間内でも1番のりだ。
羨ましがるヤツもいるだろう。俺もその1人。
「浅枝さん、文化祭の写真たくさん撮ってね。後で見せて」
浅枝は、「はーい」と受け取った。
桂木とは色々あった。
夏休みを挟み、禊を終え(と、俺は思っているけど)、今は落ち着いて自然に話せる所まで来ている。
右川とも以前と変わらず親しくしているように見えた。
桂木は、俺を挟んで右川に嫌な思いもあったと思う。だが最後には、結果的に右川に協力、思いやりを見せた。
……不思議な話だ。
右川は女子の敵にならない。
というより女子が、右川を敵と見ない所がある。
それは右川の、女子に対して優しく出る傾向のおかげかもしれない。
それ自体は悪いことじゃないし、藤谷との微妙な距離のとり方も、会話を邪魔しないという気遣いが働いている、とも思う。
だけど一応、彼女なんだから、気を使うのはむしろ藤谷であっていい筈だ。
悪くはないが、右川のその優しさに行き過ぎは感じる今日この頃。
一方男子はと言うと……永田は右川にかなり遊ばれて友好的とは言いがたい。黒川も然り。重森に至っては最悪の展開になっている。どれにも思いやりや気遣いなどは、カケラも見せない。
彼氏といっても、俺の扱いは友人以下。
とは言い過ぎかもしれないが、友人と同等な感じがある。
だけど、こうなったからには、俺には存分に行き過ぎてくれてもいいのに。
女子と同じ友達側に転ぶか、重森と共に外道に落ちるか。
ハイリスク・ローリターン。
海川ユウタが浮かんだ。
男子なのに、右川が思いやりを見せる。打ち解けたその存在。
……閑話休題。
〝修道院大学・入試試験問題 英語長文読解〟
なるものが、ある。
右川が、「途中から訳し方が分からない♪」というので、持って来いよと言ったら、あからさまにマズい!という顔をしたが、俺に睨まれて渋々持ってきた。渡した途端に、逃げ帰るという荒行をやってのける。
そして居なくなりにけり。
見ると、回答は半分で終わっていた。問題集を買った金が勿体ない。いちいち辞書で引いたのか、問題自体は真っ黒だ。こんな単語まで辞書で引くか!?と驚く。和訳を長文の脇に書いているのだが、それは完璧とは言わないまでも割と良くできていると思った。
分からない単語を除いてほぼ真っ黒。半分下は真っ白。
努力は認めるが、どうしてこういつも中途半端なんだろう。
下の回答欄の記号は、何故か全て埋まっている。全然ハズレ。
突然持って来いと言われ、俺に文句を言われないようにと、とりあえずカンで埋めといた……大ハズレで文句を言われると踏んで、早々にトンズラ。
手に取るようにわかる自分が哀しい。
いくら夜間だからって、こんなんで試験大丈夫なんだろうか。
これだけやってやってる俺なのに、ちょっとやってくれた女子と同等ぐらいでは、何だか浮かばれない。
やっぱり……海川ユウタが浮かんだ。
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