エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
「行きましょう。きみの分も払っておきました」
「え! いいです、そんな……」
というか、部長はまだ何も飲んでないし、食べてもいない。そんな人に自分の分までお金を払っていただくわけには……!
咄嗟に財布を取ろうとバッグに手を伸ばした瞬間、部長の手が先に私のバッグをつかんだ。
「持ちますよ、バッグ。ほら、早く行きましょう」
いやいや、なんで行くこと決定なの……? 全く納得は行かないものの、バッグを人質にとられてしまい、腰を上げるほかなかった。
居酒屋を出ると、部長が手を上げてタクシーを停めていた。
バッグを返してもらおうと歩道の彼に歩み寄ったけれど、部長はそれを持ったまま開いたタクシーのドアにさっさと乗り込んでしまう。
「あの、バッグ……!」
「乗ってください。そしたら返しますよ」
むううう……。卑怯な手を……。さらなる腹立たしさに襲われつつも、バッグがないと本当に困るので、不本意ながらも後部座席の彼の隣に乗り込む。
すると部長はようやくバッグを私の膝の上においてくれ、タクシーは夜の街を走り出した。賑やかな繁華街の光が、窓の外を流れる。
なんで私、部長とふたりきりでタクシーなんか乗ってるんだろ……?