エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
「あ、あのー、私たち別に仕事以外の関係は特になにも」
「照れなくていいんですよ、巴。飲み会を抜け出すときはきみのほうが積極的だったじゃないですか」
キラキラと輝く瞳で見つめられ、唐突に下の名前で呼ばれたせいか、ドキッとしてしまう。
が、しかし。……飲み会を抜け出した時のことって、私の記憶の中ではバッグを人質に取られ、渋々あなたの後についていっただけだと思うのですが。
「いやいや、どの辺が積極的ですか」
あからさまな嘘に呆れて否定した直後、ぶらんと垂れ下がっていた私の手に、温かいものが重なる。
な、なんですか急に手なんか握ったりして。
「どちらにしろ、今夜は楽しみましょう。ゆっくり、二人の時間を」
甘く、妖艶な瞳の色。それでいて、危険な香りの漂う彼の魔性の微笑みに、頭の中で、サイレンが鳴り響いた。
もしも、何か道を誤ってこの人に落ちてしまったら、きっと抜け出せない気がする――。
胸がドキドキする反面、底なし沼に片足を突っ込んでしまったような、じわじわとした恐怖が迫ってくる気がした。