エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
「あまり大きな声ではできん話だ。……乗ってくれ」
「はい……」
大きな声でできない話……。その台詞に、先ほど抱いた嫌な予感が、さらに何倍にも膨らんだ。きっと仕事の話じゃない。直感がそう告げていた。
私は身を縮ませながら、社長に続いて後部座席に乗り込んだ。
かちんこちんに固まって背筋を伸ばす私に対し、社長はリラックスした様子で背もたれに寄りかかり、ひとつ大きなため息をつく。それから意を決したように、私の方を見て口を開いた。
「単刀直入に言う。風間一誠と、別れて欲しい」
社長らしい、威厳のある声で告げられ、どくん、と心臓が重い音を立てた。
……社長、どうして私たちのことを知っているんだろう。私の心の声を察知したように、社長は話し出す。
「百合本人には別れるというようなことを言ったようだが、昨日きみたちが手をつないで帰るところを社長室から見てな……きっとまだ続いているのだろうと」
あっ……。そうだ、昨日は私、一誠さんと相思相愛に慣れたうれしさで、舞い上がって、人目もはばからず彼と手をつないだんだっけ……。
結果的には百合さんを欺いてしまったことになるのかもしれないけど……だからって、社長の要求を簡単に飲めるはずがないよ。