エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
「あなたの言い分はわかった。でもその要求は呑めないわ。明日、彼女に会いに行ってもよくって?」
「巴に? やめてください。どうせろくなことを言わないつもりでしょう」
「……どうかしらね。話、それだけなら帰るわ」
いつもならワインを好んで飲む彼女が、その日は炭酸水しか口にしなかったことを、もっと疑問に思うべきだった。
僕は何も知らずに、一度は僕から距離を置いた巴に告白して、その気持ちに応えてもらえたことに浮かれていた。青柳親子の次なる策略なんて、もうどうでもよかった。
……しかし。あろうことか社長は出張先にまで現れ、僕の恋人を連れて行き。
その数分後に、娘までもが僕の前に現れたのだった。
* * *
「こんばんは、一誠」
居酒屋に不似合いな、皺ひとつないスプリングコートを纏った百合が、僕たちのテーブルのそばでにこりと笑った。
僕は同じテーブルにつく部下に妙な勘ぐりをされないように、わざとこう言う。
「どうしました? お父様なら、先ほど帰られましたよ?」
しかし、その素知らぬ態度が失敗だった。弓型の百合の眉がキッと吊り上がり、かと思えば、彼女は急に床にうずくまって叫んだ。
「いたたたたた……っ! お腹、いたい……っ!」