エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
周囲の客の視線が一気に集まり、僕はため息をつきながら立ち上がり、彼女の腕をつかむ。
「トイレにお連れしましょうか?」
「ちがう……っ」
「ではお父様に連絡して迎えに――」
駄々っ子のように首を横に振る百合に呆れ、僕がポケットからスマホを出した瞬間だった。
「あか、ちゃん……っ」
うずくまった体勢のまま、目を真っ赤にした百合が僕を睨む。
「え……?」
「いるのよ! ここに! あなたの子が!」
途端に、店内がざわつきに包まれた。僕は一瞬ぽかんとして、僕の子……?と悩みそうになったが、そんなはずはないと思い直す。
なぜなら僕は、婚約していた期間も含め彼女に指一本触れたことはないのだ。
僕は、一番近くで店内の誰より「まじか」という顔をしている部下に説明するのは後にして、とりあえず百合をなだめはじめる。
「落ち着いてください。外で話しましょう」
「……一誠が結婚してくれるなら落ち着くわよ」
「とにかく、外へ」
なかば強引に百合を外に連れ出す。そこに社長と一緒に出て行った巴の姿はなく、どこへ行ったのかと心配になった。
……でも、今は目の前の彼女をなんとかしなくては。