エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
2.一筋縄でいかない男
月曜日の朝、私は普段の時間より十分ほど前に会社に来ていた。
と、いうのも、昨夜のうちにさっそく風間部長から連絡があり【教えたいことがあります。八時半頃、給湯室に来るように】という、丁寧だけれどなんとなく命令っぽいメールが送られてきたからだ。
始業時間は九時で、機能性食品部のオフィスに社員が集まり出すのは、だいたい八時四十分ごろから。
その十分前を指定してきたってことは、大した用じゃないんだろうけど……。
給湯室の前まで来て、扉をノックすると「はい」と部長の声がした。それまで平常心でいたはずが、途端に緊張してきた。
土曜日の朝は、そそくさと自分の一人暮らししているアパートに帰って、また一眠りして……ぼうっとしながら家事をして一日が過ぎた。
日曜日も近所に外出するぐらいの平凡な休日をひとりで過ごしていたから、部長とのことはやっぱり夢だったんじゃないかと思えてきたけれど……。
「おはよう、ございます」
意を決してドアを開け、中を窺うように半分だけ顔をのぞかせた。
濃いブルーのスーツに身を包んだ部長は給湯室の小さなキッチンの前にいて、こちらを振り向くなりふっと苦笑した。
「きみは事件を目撃した家政婦ですか。ほら、そんなところにいないで入っておいで」
……夢じゃ、ない。途端にどくどく鳴り出した鼓動を耳の奥で聞きながら、ぎこちない足取りで給湯室に入る。