エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
「……し、失礼します」
部屋に入ってすぐに、香ばしいコーヒーの香りが鼻をくすぐった。
「コーヒー淹れてたんですか?」
「ええ。朝はやっぱりこの香りを嗅がないと目が覚めなくて」
彼の目の前にあるのは、一杯分ずつ抽出できるコーヒーメーカー。傍らの棚には社員がそれぞれ持ってきている自前のマグカップが並んでいる。
「僕のはこのカップです。気が向いたら入れてくれると、恋人としてはうれしいですね。ちなみに、ブラックでいいですから」
コーヒーの抽出が終わり、部長はシンプルな紺のマグカップに口をつけた。
カップの柄やコーヒーの好みを教えてくれるってことは……オフィスで堂々と、私に彼女面をしろってことなのだろうか。……本物の彼女でもないし、ひと月で終わる関係なのに?
「……あの、そんなにオープンにお付き合いするんですか? 私たちって」
「いえ、最初は隠しておく方が面白いんじゃないですかね。で、なんとなく親密そうな空気を感じた同僚たちに噂され始めて、ばれたらカミングアウトするっていう流れが一番盛り上がりそうです」
部長は、我ながらナイスアイディアとでも言いたげな得意顔だけれど、私は口を尖らせた。
「盛り上がりそうって……完全に遊び感覚じゃないですか」
そりゃ、お互い本気でないのは理解した上だけど……恋人らしくしようと言ったのは部長のほうなのに、なんだか納得いかない。