私、いじめたアイツをオトしてみせます。〜イジワル男子攻略法〜
ズルッ!!
ドアの金具の段差に躓いた私は体勢を崩し……。
「ひゃっ!」
「……っ!」
……。
………。
痛っ……くない?
てっきり頭でも床に激突させたかと覚悟したんだけど、そんな衝撃はどこにも走ってこなかった。
それもそのはず、転倒するはずだった私の背中が、咄嗟に伸ばされたアイツの左手によって支えられていたのだから。
「あっ、あの、ありがとう」
「……重い。とっとと離れろ」
目の前にある端正な顔立ちが、私への苛立ちで不機嫌そうに歪んでいる。
本当に、綺麗な顔……。
形の良い眉毛も、吸い込まれそうなほど美しい漆黒の瞳も。
美男子のフェロモンを放つ高い鼻と薄い唇も、七海を成すそのパーツ全てが完璧で、ただの1つも粗がない。
大嫌いなはずなのに、その目と目が合うだけで、ドキドキせずにはいられない、そんな魔力を秘めている。
「おい」
「え、あっ。す、すみません!」
あっ……。
つい、小学生の頃の名残なのか何なのか、勝手に口調が戻ってしまった。
慌てて七海から距離を取り、その失態を誤魔化すように唇を噛んだ。
「……もしもし。あぁわかった。向かう」
そんな私を余所に、着信の入ったらしい七海は、電話に応答しながら私をさらりと追い越し背中を向けて去って行く。
「ちなみに」
「……?」
しばらく進んだところで、ふと七海の足が止まり、耳に近づけていた携帯を一度離した。
顔だけ私の方を振り返り、一言。
「下着、透けてるけど」
「えっ」
七海は私の返事も聞かず、また携帯を耳元に持っていくと、電話の相手と話しながらすたすたと去って行った。