再会はオペ室で
 手術は佐山の正確な手技によって淡々と進んだ。久しぶりに手洗い介助についた美鈴だったが、佐山の手を待たせることはなかった。
 「検体出ます。ゲフだしお願いします」
 取り出されたリンパ節の一部が術中迅速診断に出され結果が出るまでの間に、昼休憩に出ていた看護師が戻ってきたので美鈴は申し送りした後手袋を外した。
 「お疲れさん。久しぶりとは思えない快適さだったよ。助かった」
 「ありがとうございます」
 佐山から労いの言葉を受け手術室を出ようとした美鈴は、患者の顔に視線を向けると苦しそうに目を閉じた。誰も気付いてはいないが、マスクの下では唇を噛んでいた。
 まだ手術の続く三番ルームを出て手洗いをしながらも、美鈴は自分の中にある想いと向き合い苦しくて仕方がなかった。
 予定通り鼓膜形成の手術は終わり、復帰一日目を無事に終えた。
「どうする美鈴。飲み行く?」
ロッカーで白衣に着替えている美鈴を康代は誘った。
「復帰したばかりだし明日も勤務だからお酒は飲まないよ」
「美鈴らしいねー。じゃあ食事くらいならいいでしょ」
 持つべきなのは自分をよく理解してくれる友達だ。康代とは最初の頃、一番仲が悪かった。その康代と今は一番仲が良いのだから人間関係は不思議なものだと美鈴は思う。
「それでどうだったの。戻ってきた感想は」
 下町の路地裏にある小さな洋食屋は美鈴たち行きつけの店だ。デミグラスソースのたっぷり乗ったオムライスが美味しいが座席が少ないので座れるまでかなり待たされるのだけが残念な点だ。
 

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