再会はオペ室で
美鈴は久しぶりのデミグラスソースの前で手を合わせると、いただきますと小さな声で言った。
「やっぱりいいなって思ったよ」
「何が」
「手術室の空気。みんなが一丸となって一人の人の手術に全力を尽くすのがね。あの空気感は独特だよね。久しぶりで…、鳥肌が立っちゃった」
一足先にオムライスを口にしていた康代は、美鈴の言葉に手を止めると眉をひそめた。
「結局は手術室が好きで合ってたってこと?」
美鈴が地方の病院への異動願いを出したとき、本当の理由は管理職を除いた者たちには伏せられた。表向きは美鈴は人手不足でどうしようもない病棟の手伝いに駆り出されたことになっている。美鈴が唯一本当の理由を話したのが、他でもない康代だった。
「好きなのは好きなんだと思うけど…。やっぱり合ってはいないんだなって思った」
「どういう意味よ」
「佐山先生のオペの手洗い交代に入ったんだけど…。本当に最低だなって」
「佐山先生が?」
「まさか。私が。ゲフだしした後交代したんだけど、それまで全然忘れてたの」
「何を?」
「患者さんのこと。いま目の前にいるのは確かに一人の人間で、色々な生活背景があって、色々な人生を生きている人なのに。ドレープで覆われて
術野しか見えない状況でずっといると、そういうことがいつの間にか素っ飛んでる。臓器を見て、佐山先生の動きを見て、次は何するかって先を読むことばかりに集中してると患者さんが置き去りになるんだよ。だから佐山先生に快適だったって言われてもなんか複雑で」
「やっぱりいいなって思ったよ」
「何が」
「手術室の空気。みんなが一丸となって一人の人の手術に全力を尽くすのがね。あの空気感は独特だよね。久しぶりで…、鳥肌が立っちゃった」
一足先にオムライスを口にしていた康代は、美鈴の言葉に手を止めると眉をひそめた。
「結局は手術室が好きで合ってたってこと?」
美鈴が地方の病院への異動願いを出したとき、本当の理由は管理職を除いた者たちには伏せられた。表向きは美鈴は人手不足でどうしようもない病棟の手伝いに駆り出されたことになっている。美鈴が唯一本当の理由を話したのが、他でもない康代だった。
「好きなのは好きなんだと思うけど…。やっぱり合ってはいないんだなって思った」
「どういう意味よ」
「佐山先生のオペの手洗い交代に入ったんだけど…。本当に最低だなって」
「佐山先生が?」
「まさか。私が。ゲフだしした後交代したんだけど、それまで全然忘れてたの」
「何を?」
「患者さんのこと。いま目の前にいるのは確かに一人の人間で、色々な生活背景があって、色々な人生を生きている人なのに。ドレープで覆われて
術野しか見えない状況でずっといると、そういうことがいつの間にか素っ飛んでる。臓器を見て、佐山先生の動きを見て、次は何するかって先を読むことばかりに集中してると患者さんが置き去りになるんだよ。だから佐山先生に快適だったって言われてもなんか複雑で」