再会はオペ室で
病気や怪我で苦しむ人の役に立ちたい。そんな思いから看護師を目指したのに、その肝心な心が置き去りになっている。それが美鈴の一番の悩みだった。
「その話。前に聞いた時からずっと考えてたんだけどさあ」
 康代は手にしているスプーンを再び動かし始めた。オムライスをカツカツとつつきながら、憂いた表情で唇をきゅっと結んだ。
「何回考えても、仕方ないとしか思えないんだよね」
「仕方ないって…。仕方なくないよ」
「美鈴は真面目だからそこまで考えちゃうんだろうけどさ。でも器械だしの時に求められてるのは、いかにオペをスムーズに出来るかじゃない。オペ時間が短ければ患者さんの術後の合併症のリスクだって減るわけだし。器械だしがスムーズならドクターも気持ち良くオペが出来るから、ミスだって減る。結局はちゃんと患者さんに還元されるわけだから」
「そうなんだけどね。そう考えたりもしたんだよ、私も。でもね、あの場に立つと、そういう自分自身にぞっとしちゃうっていうか。あー、やっぱりなんかもう堂々巡り」
「だから考え過ぎなんだよ、美鈴は。外回りの時はちゃんと患者さんと向き合えてるんでしょ?」
「それはもちろん」
「だったら大丈夫。美鈴はオペロボットなんかじゃない。ちゃんと患者さんのことを思ってる出来るナースよ。器械だしの時はそれだけオペに集中出来てる証拠。さ、食べよう。せっかくのオムライスが冷めちゃう」
「うん…」
 康代が自分に伝えたいことはよく分かる。でも分かること全てが納得出来るわけではない。その後、絶品のオムライスを口にしながら、康代の話は美鈴がいなかった間の裏話に終始した。相槌を打ちながら美鈴は、この先自分が歩むべき道について考えていた。
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