再会はオペ室で
軽くシャワーを浴びるのは出かける前にいつも決まってする事で特別な意味はなかったが、これから時間を共にするのが貴島だと思うと美鈴は少し複雑な思いに駆られた。自分の中にかつての恋人に少しでも綺麗な自分を見せたいという気持ちがあるのは否定出来ない。いつもより少し濃いめの化粧になったのも恐らくそのせいだ。

 バスを降りて花屋が見える場所に着いたところで美鈴は行く足を止めた。待ち合わせ時間まであと十分あるのに貴島の姿があった。
 白衣を脱いだところで貴島の魅力は減らないらしく、病院にいる時と同様に周囲からの視線を集めている。直ぐには近寄らずしばらく見ていると、何度も女性たちから声を掛けられては断っているようだった。
「ようやく来た」
時間ちょうどになり現れた美鈴を見て笑顔になった貴島に、十分もの間そこにいたと美鈴は正直に言えなかった。
「ようやくって。遅刻はしてないわよ」
「確かに。でも昔の美鈴なら、約束時間の十分以上前には必ず来てたなと思ってさ。まあ、昔は昔だよな」
「ーーーそうね」
「で、どこに連れて行ってくれるつもりなんだ」
「急だったからまだ考えてないわよ。何が食べたいの?」
「そうだな。小籠包とか食べたい気分だね」
「台湾料理ね。それなら近くにあるわよ。行きましょう」
 貴島が小籠包を食べたいと言ったことに、美鈴は内心喜んでいた。台湾料理は美鈴の大好物だからだ。特に台湾スイーツには目がない。豆花もその一つだ。

 店内は半個室と完全個室に別れている。どちらにするか従業員に聞かれ、美鈴は迷いなく完全個室を選んだ。そんなに俺と二人きりになりたかったかと貴島にからかわれたがそうではなく、二人で食事しているのを病院関係者に見られるのも話を聞かれるのも避けたかった。

 適当に注文を済ませると、静かな空間に二人きりでいるという事実に美鈴の気持ちは落ち着かなくなった。
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