再会はオペ室で
自分が本当に手術室に向いている人間なのか。美鈴は日々の仕事と真摯に向き合いながらずっと考えてきた。そうしているうちに日々は確実に過ぎ、経験を重ねていくうちにいつの間にか先輩という立場になっていた。日常業務に加え、後輩たちの育成や研究チームのメンバーになると、悩む時間は格段に減っていた。
でもそうしたある日、美鈴は改めて当初の悩みと向き合うことになった。その結果選んだのが、半年間の気分転換を兼ねた分院への異動だった。
小児科の手術ということもあり患児の負担を出来るだけ少なくするため、美鈴はストレッチャーを持たずに手術室の入り口の扉を開けた。
ベットに寝ている患児の顔を初めて見たが、不安を抱いていることは容易に見てわかった。
「こんにちは。山口直哉君ね。初めまして。手術室の中で、色々と直哉君のお世話をする奥井美鈴です。よろしくね」
マスクを外して挨拶したが、ベッドの上の直哉君は今にも泣き出しそうな顔をしている。そこで初めて美鈴は、自分がこの手術についたことを後悔した。
通常であれば、昨日の時点で美鈴が直哉の元へ術前ラウンドへ行っておかなければいけなかった。だが今日から復帰のため、昨日のラウンドには別の看護師が行っていた。
前日に顔を合わせておくことの効果がどれ程あるかは美鈴自身にも分からないが、全く知らない看護師に手術の直前に担当するというよりは子供にとって多少の安心材料にはなるのだろう。
今さら担当を変わるわけにもいかず、とうとう泣き出してしまった直哉を美鈴はベットから抱き上げた。
だが直哉の泣き声はますます大きくなる一方で、後ろで見ている母親や病棟の看護師も不安そうな顔をしている。昨日ラウンドに行った看護師に一度来てもらった方が安心出来るかなと美鈴が考えた矢先。
「おー、直哉君。大きくて元気な声だなー」
聞いたことのない低い男性の声がして振り返った美鈴の視線は一瞬でその男性の顔に釘付けになっていた。