再会はオペ室で
麻酔がかかり、執刀医の「お願いします」の一言で手術が始まった。執刀医の柳ヶ浦は小児科で人気の先生だ。何より子供に優しく手術が上手い。その上、手術中の周りに対する配慮にも長けているため、看護師達からの信頼も絶大だ。
美鈴も柳ヶ浦のファンの一人だ。でもそれは、恋心的なものは一切なかった。人間として尊敬している。
何より柳ヶ浦は愛妻家であり、三人の子供たちを溺愛している。そうした部分も美鈴が柳ヶ浦のファンになった要素だ。
展開していく術野に合わせて無影燈を調節したり、バイタルを記録したり顔を観察したりしながら、美鈴はどうしても柳ヶ浦の向かい側に立ち第一助手を務めている男の存在が気になって仕方がなかった。
集中していても事故が起こることもある手術室内で不謹慎過ぎるとは思うのに、柳ヶ浦より第一助手の貴島悠哉に目がいってしまうのだ。
泣き叫ぶ直哉に声をかけ、美鈴から直哉を取り上げたのが貴島だった。貴島に抱き上げられたとたん直哉はピタリと泣き止み、笑顔まで見せた。美鈴が礼を述べる間もなく、貴島はそのまま話ながら直哉を手術室まで連れてきてしまった。
柳ヶ浦も同じように対応してくれたことは何度もあった。小児外科の医師であれば、こんな対応をしてくれる先生は時々いて、ものすごく特別というわけではない。
美鈴がこだわっているのはそこではなかった。美鈴は貴島をよく知っていた。