再会はオペ室で
午前中は他の手術のフォローに回り、あっという間にお昼時を迎えた。午後の鼓膜形成の手術は二時からなので美鈴は先に休憩に入ることになっている。
　手術の進行はばらばらのため、他の病棟の看護師たちとは違い、他の人と一緒に昼休憩に入ることが少ない。今日も一人で美鈴は地下の食堂へと向かった。
　食堂はかなり混雑しているが広さがあるのでそれほど気にならない。職員だけでなく附属の看護学校や附属の医大生、それに安くて美味しく、ヘルシーだという評判で、患者や家族たちの姿も多く見られる。
　今日は一時間丸々休憩がとれて余裕があるため、美鈴はＡ定食にした。うどんにしょうが焼きとサラダ、味噌汁とご飯、それにデザートまでついて四百円はこのご時世でかなり貴重だ。
　奥の方へ行くとテラスがある。夏場で陽射しが強く入るためか人気が少なかったので、美鈴はそこに座った。
　「いただきます」
　手を合わせ勢いよく食べ始めた。美鈴は食べることが好きで、飲み会の席でもほとんど飲まずに食べている。美鈴の周囲の人間たちにとって、『なぜ彼女はあんなに大食いなのに誰よりも細いのか』は永遠のテーマになっている。
　「相変わらず美味そうに食べるんだな」
　しょうが焼きを口に入れたところで不意に後ろから声をかけられて驚いたせいで、ほとんど噛まずに飲み込んでいた。あのほんのりと口の中に広がる生姜とにんにくの薫りを味わうのが楽しみなのに、と美鈴は恨みがましい気持ちで声の主を振り返った。
　美鈴が思った通りそこには貴島がいて、文句のつけようがない美しく整った顔で美鈴を見下ろしていた。

< 6 / 18 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop