再会はオペ室で
 食事を終えて戻った美鈴は、三番手術室の手洗い介助の昼休憩の交代に入るように言われた。遅番出勤の者が交代するはずだったが、急遽休みになったためだ。手洗いをし、ガウンを身につけてもらい手術室へ入る。手術室の中と外では空気がまるで違う。少しのミスが重大な事故に繋がる恐れがある現場は、時々はドクターが周りの緊張を解そうと冗談を言ったりすることはあっても、やはり独特な空気だ。
「おっ。奥井さんか。久しぶりだなー。元気だった?」
 執刀医の佐山は入ってきた美鈴の顔を見ると、嬉しそうに声を掛けた。婦人科の准教授である佐山は美鈴がまだ新人だった頃は一番怖いドクターだった。
「お久しぶりです佐山先生。元気でしたよ。相変わらずです」
 手洗い看護師から申し送りを受けてから佐山の隣に立ち答えた美鈴に、マスクの上に見える瞳が優しく弧を描いた。
「オッケー。元気で何より。じゃあ久しぶりだけどさ、いつもの感じでよろしく」
「はい」
「コッヘル」
 佐山が美鈴から器具を受け取る瞬間、手術室内にパチッという音が響く。ドクターによっては手術中に好きな曲をリクエストする者も多いが、佐山はかけない派だ。真剣な手術中にそんなものはいらない。というのが佐山の信条らしい。実際佐山の手術はいつも真剣味に溢れていて、早く、丁寧であり正確だ。器械をドレープのポケットに入れたままにすることもなく、全て手洗い看護師に正確に返してくれるため、カウントもしやすい。そんな佐山に最初に厳しくされたおかげで自分は成長出来たと美鈴は常々思っていた。
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