木崎、こっちを向いて
職員室の隣にある、生徒指導室に入っていった先生を追いかけて、私も入った
生徒指導室…、本当に悪いことをしたのかもしれない。
6畳くらいと小さな部屋に、テーブルを囲んで椅子が4つある
先生が座った椅子の迎え側に私も座った
「これ、この前出してくれたやつだけど」
先生の手には、先週出した進路希望調査。
「はい」
「なんで、就職希望なの?」
私が出した進路希望調査には
『就職希望』と書かれている
「大学行ってまで、やりたいことがないからです」
「やりたいこと…そんなの後から決めてもいいんだよ。
保護者の方とちゃんと話した?」
「…」
話し合う訳がない。お母さんはとっくにいないし、お父さんが最後に日本に帰ってきたのは半年前だ。
「話してないんだね。
うちの学校はもう四年も就職しているひとがいないんだ。」
県内一の進学校であるこの学校、しかも私立だから、就職する人なんていなくてみんな進学する。
「それに木崎は学年一位、この前の模試の結果だってとても良かったし、このまま就職じゃ勿体無いと思うよ。
経済的な面で心配なら、国公立行くとか、奨学金貰うとか…、木崎なら貰えるくらいの成績あるし」
いつもの優しい雰囲気の先生はいなくて、表情は真剣そのものだった。
先生の目を見てると、吸い込まれそうになるから、私は目を逸らした。
「早く自立して、親の援助なんか受けたくないんです。」
私の消えそうな小さい言葉に先生はため息をついた。
「まずは、親御さんに話しなさい。」
「話せません。もういいんです。」
私はそういって立ち上がると、
先生の私の名前を呼ぶ声を無視して、進路指導室から逃げるように立ち去った。