泣かないで、悪魔さん
…
「ん…?」
暖かい。
目を開いた瞬間、そう思った。
そして、目の前は真っ白ではなく、
私は暖かいオレンジ色の灯りの中に居た。
それはロウソクの揺れる部屋で、
私の横には暖炉がある。
薪が燃えている。
そのパチパチという音が、私の体をさらに温めるようだった。
暖かいのは暖炉の炎だけじゃない。
私は柔らかなソファーの上に横たわって居た。そして、毛布がかけられている。
私はどうしてこの部屋に?
辺りを見回すと、ここが普通の家ではないらしいと分かった。
このソファーの後ろには、二段ベッドが二つ並んで居た。そして、大きめのキッチン、
二重窓、大きなクローゼット。きっと、この部屋には3,4人が一緒に暮らしているのだろう。
大きめのキッチン、クローゼットなどのせいか、そこそこ広さのあるこの部屋は、少し狭く感じる。
広いよりは、その方が好きだけど。
「っくしゅん!」
大きなくしゃみが飛び出した。
あの寒さからこんなにぬくぬくになったら、体もびっくりするだろう。
体はふるふると震えた。
しかし、凍りそうに冷たかった指先はすっかり元に戻っているし、耳たぶの感覚もある。
…それにしても、やっぱり分からない。
私は何故ここに?
その前に、何故あの砂浜に?
あの、冷たい氷の粒、白い粒は何だったの?
私は…どこから来たの?
私の周りに飛び交っていた言葉は、やっぱり理解できなかった。
ここは、私のいた場所から遠く離れているようだ。
でも、本当にわからない。
何で、こんな異国の地にいるのか…
その時、声がした。
“ Hey,are you alright? ”
ーやぁ、大丈夫?
「えっ?」
辺りを見回すと、誰もいない。
若い男性の声だ。聞き覚えがあるようで無いような。
ていうか、何て言ってるか全然わかんない。
“ Look around.I'm here. ”
–周り見て。ここだよ。
だから、何て言ってるの?
やっぱり、部屋に人影はなかった。
幻聴でも聞いてるのかな…
寒さで頭がおかしくなった?
すると、私の顎に何かが触れた。
それが手だとわかる前に、私の目の前に顔が現れた。上下逆さま。
私はソファーに座っていて、そのまま、上を見上げるように、後ろから顎を持ち上げられたのだ。
その上下逆さまの顔は、とても綺麗だった。
“You! Why do you ignore me? ”
–君!何で無視するんだよ。
この人、なんか怒ってるのかな。
不服そうに眉を寄せている。
ていうか、なぜこの体勢?
顔が近い!
あ、この人の目、青と緑が混ざったような色をしてる。とても綺麗。
髪の毛は赤茶色っぽくて、とても明るい色だ。
“ What are you looking at? ”
–何見てるの?
その顔は、また何か言った。
私は首を伸ばしたまま、声を絞り出した。
「あ、ご、ごめんなさい…?」
そう言った途端に、その顔は目を見開いた。