泣かないで、悪魔さん
“What? Are you a foreigner? ”
–え?君外国人?
「…はい?」
この人は何を驚いているのか…?
『おいルカ!鍵は閉めとけって何度も…』
その時、扉の開く音がし、別の声がした。
これも何を言っているかわからない。
『ん?誰だその…』
その人物は何か言いかけると、私の目の前に
走ってきて、両手で私の顔を正面に向かせた。その髪の毛は金髪で、この人の目は薄茶色だ。少し目力が強く、見つめられると少し怖い。
『おっ…おっ…』
その人物は、わなわなと口を震わせている。
「あの…なっ、なんなんですか」
怖い。何でそんなに見てくるの?
『おっ…おおおお、
おんなぁあぁあああっ!?
ーっぐあ』
その人は、何かを叫んだ瞬間にもう1人の青緑の目の方に顔面を殴られて、地面に突っ伏した。
『本当にうるさいな、ウィル。』
『て…てめぇ…よくも殴ってくれたな』
『いきなり叫んだりするからだよ。
何だよ“ おんなぁあ” って』
殴られた方の男は、痛そうに鼻を抑えながら
起き上がった。
『そりゃあお前なぁ、女だぞ!わかってんのか?叫ばずに居られるかよ!
しかも、こいつ』
鼻を抑える金髪の男は、私を指差した。
指を差されるのはいい気がしない。
少し顔をしかめた。
『外国人じゃねぇか』
『そうみたいだね』
落ち着いた雰囲気のある青い目の男は、キッチンに立って、お茶をカップに注ぎ始めた。
『そうみたいだね、じゃねぇ!ルカ。
外国人の女がこんなところに一人でいるなんて、誰かに知られたらどうする。』
《ルカ》というのがこの人の名前?
青い目をしている、その青はただの青じゃない。夜空のような、深い青だ。
夏の、星が無数に輝くような。
『僕だって好きでその子を連れてきたんじゃないよ。でも、死にそうになってたから…この吹雪の中、海辺に倒れてたんだよ。
見殺しにはできないよ』
ルカは、3つのカップをテーブルに乗せた。
『どうぞ』
私は、差し出されたカップを受け取った。
この2人が何を話しているかわからないけど、とりあえずここにいたらどうにかなるような気がする。
『海辺に倒れてたっつーのは、まさか、あの死体を運んできたってのか?』
『うん、そうだよ。お前みたいに、もう死んでるだろうって言ってる奴は大勢いたけどね。』
ルカはそういうと、呆れたように首を振った。それを見たウィルは決まり悪そうに言い返す。
『そ、そりゃあそう思うだろ!何せ、今年の冬は特に寒いんだ。あの吹雪の中で、それも波に晒されて…。』
『僕も最初は完全に死んでると思った。
でも、ほら。まだ生きてたんだよ』
青い目の青年、ルカは、カップの紅茶を飲みながら私の方に目をやった。
ウィルは、弁明を諦めてカップの中の紅茶を一気に飲み込んだ。
『しかし、よくここに連れてきたな…。
てっきり猫にやられてたと思ったんだが』
『そうだね。あれはたしかに奴だった』
2人の目が、何か嫌なものを思い出したように細められた。何の話をしているのかは、未ださっぱりわからない。ていうか、これは英語なの?
『何でこの女があんなとこにいたのか、どっから来たのか知らねぇけど…
あの伝説が本当だとしたら』
ウィルがカップをテーブルに置いた。
『こいつこそがその《救世主》って奴なんじゃねぇの』
ウィルは私の顔を見た。
『たしかに』
ルカは、カップを持ったまま答える。
『この子は異国の少女だ。
僕達の会話を全く理解してないみたいだし、この子の話す言葉はおそらく東洋のだろうね。でも』
『なんだよ』
ウィルは、もったいぶったように言葉を切ったルカをにらんだ。
『それだけじゃ《救世主》だと決定できる理由にはならないよ』
ルカは、そうはっきりと言った。
その毅然な態度にウィルは口ごもった。
『でもよ、こいつ』
ウィルは、少女に目線をやった。
2人が、私の顔を覗き込む。
『すっごい美少女じゃねぇか』
…