泣かないで、悪魔さん


「いたっ、ごめんなさ…ぎゃっ」

私は、黒いフード付きのパーカを被せられている。前はよく見えないし、人は多いし…
私はまるで、テレビ局に追い回される容疑者みたいな気分だった。

もちろん、誰も私のことを追ってはいない。

その時、体がぎゅんと前に引っ張られた。

「ちょっ…と!早い!」

私は、前にいる2人の青年の後ろを歩いていて、ルカが私の手を引いている。

本当に《ルカ》であってるのかわからないけど。ルカとウィルは、人混みの中をずんずんと進む。私はそれに引っ張られる。
キャリーバッグになった気分だ。

「ちょっと!聞いてんの!もっとゆっくり!
いたっ!」

ルカとウィルは、少女の様子を伺う暇も惜しいというように、前だけを見て早々と歩く。


“ What's she saying? ”
–この子何ていってる?

“ Do you think I can understand what you can't do? ”
–お前に分からないのに俺に分かるかよ?

“Ah, right.You're smarter than me now.”
–たしかにそうだね。僕より賢いな。

“ Yeah,I'm always better than you ”
–おう、俺はいつでもお前より上だからな。

「あのー…」

だめだ、ちっとも聞いてないし、私も2人が何を話してるのか分からない。

それに、私の顔はフードで隠されている。
どうしてこんな風に、コソコソしているんだろう。

そもそも、私ってなんでこんな所歩いてるの?

『それにしてもすごい人混みだなぁ?
今日ってなんかあったっけか』

ウィルは悪い目つきで辺りを見回した。
私達は、人混みの流れを逆行するように進んでいる。

『お前、忘れたの?そんなんじゃ特捜隊名乗れないよ』

ルカは呆れたように言った。

『仕方ねぇだろ?俺は好きでこんな組織に入ったわけじゃねぇんだからよ』

ウィルは舌打ちした。

『ウィル、行儀悪い』

はいはい、とウィルがため息をついた。

『で、今日は一体何の騒ぎなんだよ』

『今日は…』


カーン、カーンと、高い鐘の音が街中に響く。

すると、人混みは道の真ん中を開けるようにして道の脇へと寄っていった。

私達もそれに巻き込まれる。

「きゃあっ!」

『うおおっ』

『来たみたいだね』

人の波に飲まれながら、どんどん道の脇へ押し寄せられる。

「一体なんなのこれ…!」

フードの下から道の先を覗く。
すると、道の真ん中を歩く、真っ白な人の列が見えた。

「何…?あれ」


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