泣かないで、悪魔さん
カーン、カーンと、また高い鐘の音が鳴った。すると、頭を下げていた人々は片膝を石畳の上に着き、片手を胸に当てた。
ルカがそれに従って真似をすると、ウィルと私も見様見真似で形だけ参加する。
また、カーン、カーン、と鐘がなった。
すると、人々はすっと息を吸ってから、歌を歌い始める。
『月夜に舞うのは白き翼
鐘の音に我らの歌が響く限り
この世の憂いは空へ放たれ
雪となり地を清めるだろう
ああ 純白の羽よ 貴女を愛します 』
鐘が最後に一度、カーンとなった。
皆は胸に当てた手をぐっと握りしめて、数分間そのまま黙祷を捧げた。
中には、涙を流す者もいた。
私は意味が分からずに、ただその様子を見ていた。
ルカは、目を閉じて、周りの人間と同じように痛みをかみ締めるような表情を浮かべていた。
『…行こうか』
ルカはそういうと、まばらに立ち上がって街を去る人々達とは逆の、緩やかな坂道のさらに先を見上げた。
その坂道の果て、崖の上には、白い塔があった。その上には、金色の鐘が掲げられている。
『おい、ルカ!待てよ』
ルカは、ウィルと私を置いて坂道を進む。
ウィルは、私の方を見た。
『フード、ちゃんと被っとけよ』
ウィルは、何かいって私の頭に手を置いた。
そして、私の腕を掴んで引っ張った。
「あっ、ちょっと」
何度言っても、この人達は私のペースに合わせてはくれない。もちろん、私の言葉がわからないからだろうけど。
私とウィルがルカに追いつくと、ルカは早足で歩きながら言った。
『僕達の目的地はここじゃないよ。
もっともっと先だ。』
『もっと先って、一体どこ行くつもりだよ。
さっきの…白いドレスの女と上官達の進行方向は東だったぞ。こっちは西じゃねぇか』
『そうだよ。目的地は西の方向で合ってる』
『…それならいいけどよ、なんか…』
ルカはすたすたと進んでいくが、道はだんだんと狭くなってきていて、頭上には怪しげな看板、両脇にそびえ立つ高い煉瓦造りの建物、まばらに立つ街灯。
さらに、日は少しずつ傾いて、あたりは暗くなってきた。
『なんか、怪しくないか?』
『そう見えるのも仕方ないよ。ここはフクロウ通りだから』
『フクロウ通り?』
『そういう種族の縄張りってこと。
とにかく、あまり目立たないようにね』
『お、おう』
ウィルは、私の腕をつかむ手に少し力を込めた。ルカも小声で話しているし、何かがこの通りにはあるらしい。