明日を生きる君達へ
希望と絶望と力と私

新生活と桜の便箋



始まりの時期に相応しい、桜とほんの少し、アスファルトの匂いが混じった朝の部屋。



─相原れい様

もう少しで、高校生だね!
私的には、あんたは英語苦手だから、着いて行けるか心配です。
クラス、一緒になれるといいね!どんな勉強をするのか、部活はどんな物があるのか、今からとても楽しみです。
手紙、やめないでいようね!

遠藤春歌より──




なぜ手紙?と不思議に思う人もいるだろう。
私達は、2人になにか大きい事があった時、メッセージアプリでのメッセージでは無く、手紙を送る、ときめているのだ。


桜の便箋で送られてきた親友からの手紙を読み返す。
1番最初の感想は、「あいはら」の漢字は分かるのに、「れい」の漢字は分からなかったのか。ということ。
「れいは零って書くんですよー……。」
そんな事を呟く私も、今日から女子高校生。
いわゆる「JK」である。
今まで縁がなかったオシャレにも、挑戦できる。


「零ー!遅いよー!」
いかにも新高一らしい、元気な声が外から聞こえる。
「ごめーん!今行く!」

おろしたての制服を身に纏って、私は玄関を飛び出す。
皮の匂いが残るローファーを鳴らしながら、私達は2人で学校へ向かう。




「いやぁー、ホント、無事に同じ高校行けて良かったよー!」
そう言って、ポニーテールを弾ませながら私の隣を歩いているのは、幼馴染で親友の遠藤春歌(エンドウ ハルカ)。明るく、社交的な彼女は、小学校、中学校共に恐らく1番モテていただろう。
人望も厚く、決断力やリーダーシップは抜群。勉強も上の下くらいには入れる。加えて運動も凄く得意で、中学時代はバスケ部のキャプテンだった。そう、根っからの主人公キャラである。
「ホント良かったね~。」
彼女と対照的に、私、相原零(アイハラ レイ)はダメダメ。優柔不断で引っ込み思案。いつもオドオドしていて、良い第一印象を持ってくれる人はほとんど居ない。一応、バレー部に所属してはいたが、スタメン出場できたのは、3年の数えるほどの試合しかない。勉強もダメで、ここに入るのもギリギリだった。間違ってもリーダーシップは語れない。良い所はせいぜいツヤのあるセミロングの髪くらいだろう。
どうしてそんな私がこんな人気者と仲良くできているのかというと、100%春歌が仲良くしてくれているおかげと言っていいだろう。

そして、電車に乗り、今日から通うことになる学校に着く。県内では、結構な有名公立高校で、校舎は比較的新しくて綺麗だし、施設も充実している。
「受験で来たとはいえ、ここに通うんだと思うと、ちょっと緊張するね……。」
春歌が足を止めて言う。
「そ、そうだね…。」
極度のあがり症の私は、実を言うと凄く緊張していた。
「まぁ、突っ立っててもどうしようもないし、入ろうか。」
「う、うん。」
すると、春歌が私の前に回り込み、私の顔を覗き込む。
「え、どしたの?」
検分するような目で私を見て、春歌が言う。
「緊張、してるでしょ。」
「え!?」
あっさり見抜かれてしまい、私はマヌケな声を出してしまう。
「あはは!やっぱりね!大丈夫だよ、大丈夫!ほら、リラックスして!クラス表見に行かなきゃ!」
「私は春歌みたいにすぐには馴染めないの!」
ちょっとした言い合いを勃発させ、クラス表で自分と春歌の名前を探す。
あ、あった。「相原」だから、やっぱ1番早いよねー。
「あっ!」
隣の春歌が小さく歓声を上げる。
「見て!同じクラスだ!!」
「嘘!ホントだ!やったー!」
私達は人だかりの真ん中で、馬鹿みたいに抱き合って喜ぶ。
「2組、だね。クラスの名簿見とこうか。」
という私の提案に、
「もちのろん!」
と春歌。最高級に春歌のテンションが高いことを、私は知っている。
名簿に目をやっていると、少し違和感があった。
「酒井」という苗字の後に「神木」という苗字があって、「さかい」と「かみき」なのに何で?という一瞬の戸惑いがあって、あぁ、と納得する。「神木」って「さかき」って読むんだ。
「零、そろそろ行こうか。」
「おっけい、おっけい。」
退屈な校長の入学の挨拶を聞き、吹奏楽部の演奏を聴いて、入学式を終えた。
私達の新生活が、桜の香りと便箋と共に始まった。
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