明日を生きる君達へ
「はあっはあっ…」
今のは一体……?
ざぁざぁと雨が地面を削る音がしている。
夢と全く同じだ。まぁ雨なんて珍しくないしね、と内心少し緊張しながら思う。とりあえず、ご飯食べて支度をしよう。
「おはよう。少しは落ち着いた?」
リビングに入ると、お母さんの心配そうな声が聞こえてきた。
「うん。お父さんと圭人は?」
「お父さん、今日はいつもより早く出勤なんですって。圭人は朝練があるって言って先に出ちゃったわ。」
なるほど。圭人、というのは私の弟の事。姉の私が言うのもなんだけど、結構モテているらしい。バレンタインの時には、貰ったチョコだけで少なくとも2週間は暮らせるんじゃないかと思う。
「お味噌汁あるけどいる?」
「うーん、今日はいいかな。ごちそうさま。」
いつもより少し遅れ気味になってしまったので、急いで制服に着替え、簡単にメイクを済ませる。玄関を飛び出しても、遅いぞー、と笑ってくれる親友はいなかった。
──当たり前、なんだけどね。
自然と涙が零れてしまいそうになったので、慌てて両手で瞼を押さえて、強制的に涙を引っ込ませる。
無言で駅に向かい、電車に乗り、学校へ向かう。朝が楽しかったのは、春歌と話をする事が出来ていたからなんだ、と改めて思い知らされる。
「おはよう…」
力ない私の挨拶に、クラス全員が注目し、全てを察したような視線に、私の心は余計に重くなっていった。
「よう、あいは…じゃなかった、零。」
隣の神木くんが話しかけてきた。
「おはよう、神木く…じゃない、怜斗。」
お互いに同じような間違いをしたから、どちらも少し、笑ってしまった。
「なぁ、零。」
少し真剣な顔で、怜斗が言った。
「え?」
「遠藤の事は、ホントに残念だった。」
本当は返事をしたかったけど、口を開いたら泣いちゃう気がして、出来なかった。
「あの…弁当のハンバーグ、半分やるよ。俺いらないし。」
ん?ハン…バーグ…?待って、これ、夢と全く同じだ。天気は偶然だと思ったけど、流石にこれまでかぶるってある?
「あ…ありがとう…。」
どういうこと?あの夢、正夢だったとか?いやでもこんなしょーもない正夢見るかな?正夢って普通、もっと大きな事が起こる時に見るものだよね……。…てことはまさか……予知夢、だったとか……?いやまさか、ねぇ?いやでもやっぱり……。
私は大して賢くもない頭をフル回転させ、考え込んだ。
──あいつ、死んでよかったわー。
え?
ゆっくりと声のした方を見ると、春歌の席の近くに、何回も染めたんだろうな、っていう艶のない金髪にやけに目立つピアス。明らかに校則違反の制服の乱れっぷり。とても分かりやすいギャル3人組。
「マジそれな!あいつ、何でも出来ますー、なんて顔して男に媚び売って、ぶりっ子過ぎな!!」
ギャハハハ!と下品な笑い声が聞こえる。
何で、そんな事言うの?
これが今の私の率直な意見だった。
すると突然怜斗が席を立ち、ギャル3人組の所へツカツカと歩いて行った。
「なぁ……」
怜斗が話しかけると、ギャル3人組は軽く目を見開いた。しかしすぐにさっきまでの声とは違い、
「あれ?神木くんじゃーん!どしたのぉ?」
うわ、気持ち悪。春歌の悪口言ってる時の表情と、学年一、いやヘタしたら学校一のイケメン相手にする表情、全然違うんだ。春歌は男子に媚びなんか売ってなかった。ただ自然と、周りに人が集まっていただけ。それを、人が寄り付かないのは春歌のせいにして、自分達に非はありません、みたいな顔してる奴の表情は、どんだけ可愛く作ったって、汚かった。
「何で、そんな事言うの?」
「え?」
思いもしなかった怜斗の言葉に、ギャルの顔が一瞬困惑に染まる。私も正直驚いていた。
「何で、って、神木くんもそう思うでしょ!?遠藤ぶりっ子だなーって。」
何で、こんな事が言えるのだろう。不幸な事故で、強制的に人生を終了させられた人に。
「何で、そんな事言えるんだよ。不幸な事故で、強制的に人生を終了させられた人に。」
え、何でさっきから怜斗は私が思っていることを言ってるんだろう?さっきの夢だってまだ結論出てないのに、新たな謎生み出さないでー!
「別にいーじゃん!もうこの世にはいないんだし!」
「そーだよ!神木くんもいつまでも死んだ女に執着しないで、アタシらと遊ぼーよ!」
ありえない。心の底からそう思った。こんなに最低なヤツ、初めて見た。
「お前ら、マジありえねーな。お前らほど最低なヤツ、初めて見た。」
それだけ言い残して、怜斗は早足で、こちらに戻ってきた。
偶然、だよね。
「偶然じゃねぇよ。」
「え?」
ぽかんとした顔で怜斗を見る私に、俺に着いてきて、と耳打ちし、怜斗は席を立ち、教室の外へ出た。私が慌てて後を追うと、上を指さし、
「行くぞ。」
と、階段を登って行った。追いかけていって、着いたのは屋上だった。
「怜斗、どうしたの?急にこんな所に来て……」
「まぁとりあえず座れよ。」
といって、私達はフェンス横の、ドラマでよくある主人公が友達と弁当食べる時に座ってる所的な所に座った。私は小学校、中学校共に屋上は出入り禁止だったから、屋上に行くのは初めてだった。
「で、信じてもらえるか微妙だけど、さっき俺が声に出して言ってたのは、全部お前の気持ちだ。」
「え、えぇぇぇ!?」
私の気持ち!?どうやって!?
「俺がこれから言うこと、信じてくれるか?」
正直急展開すぎて、頭が追いつかなかったけど、私はコクリと頷いた。私が頷くと、怜斗は笑顔で「ありがとう。」と言った。
「さて、突然で申し訳ないんだが、1番の重要事項言うぞ?」
怜斗の神妙な口調に、私も少し緊張する。
「俺には、お前の気持ちが全部分かる。」
一瞬、訳が分からず固まってしまう。が、このまま何も言わないのはまずいと思ったので、私は震えていたけど、なんとか声を出した。
「それって、読心術…みたいな?」
「まぁ、そんな感じかな。」
人の心を読むって……なんか…カッコイイ……かも…。
「人の心を読むってなんかカッコイイって思ったろ。」
また心を読まれてしまって、ビクッとしてしまう。
「それと、お前朝さ。」
「うん?」
「夢と同じだ、とかなんとか思ってたみたいだけど、あれ何だ?」
あぁ、そうか。朝も朝で心読まれてたんだ。
「それは…私も、よく分からなくて…考えても結論なんか出なくって……。」
「は?どういう事だよ、分かんねぇって。」
「え、だから、昨日の夜、夢を見たんだけど、その夢と今日起こっている出来事が同じなの。このまま行くと、多分私、後で指切る。」
「夢に出てきたのか?指切るのが。」
「うん、紙で指切った。」
怜斗はしばらくうーん、と考え込んでから言った。
「まぁ、ホントに紙で指切るのか確かめてからじゃねぇと、何も言えねぇな。」
「そうだよね……」
すると、授業の始まりのチャイムが、暴力的な音で鳴った。
「うるさっ!」
「まぁここ、屋上だしな。スピーカーそこだし。」
「あぁ、なるほど……じゃなくて急がなきゃ!」
「ははっ!分かってるよ、急ぐぞ!」
私達は階段を猛ダッシュで駆け下り、チャイムが鳴り終わったところで席に着いた。
「あらあら、相原さんと神木くん、ギリギリだったわね。」
佐藤先生がふふっと笑った。社会ならもう少し早く戻れば良かったな、と思った。
「すみません…」
私と怜斗のすみません、があまりにもかぶっていたので、クラスの中に、ちょっとした笑いが起こった。
「はい、じゃあ皆さん、教科書の26ページを開いてくださいね。」
パラパラと一斉にページをめくる音が聞こえる。私も教科書開けなきゃ。
「痛っ!」
まさかと思って指を見ると、見事に指が切れていた。怜斗と顔を見合わせる。
「あら、相原さん、指切っちゃったの?大丈夫?」
「あ、大丈夫です。少ししか切ってないので!」
「そうかしら?ならいいんだけど。洗ってきてもいいのよ?」
「すいません、大丈夫です。」
そう?と心配顔で先生は教壇に戻っていく。
「お前、ホントに指切ったのか。」
「うん、切っちゃったね。」
「やっぱり予知だったんじゃ……」
うーん、と二人とも考え込み、大好きなはずの社会の授業も、全く頭に入ってこなかった。
今のは一体……?
ざぁざぁと雨が地面を削る音がしている。
夢と全く同じだ。まぁ雨なんて珍しくないしね、と内心少し緊張しながら思う。とりあえず、ご飯食べて支度をしよう。
「おはよう。少しは落ち着いた?」
リビングに入ると、お母さんの心配そうな声が聞こえてきた。
「うん。お父さんと圭人は?」
「お父さん、今日はいつもより早く出勤なんですって。圭人は朝練があるって言って先に出ちゃったわ。」
なるほど。圭人、というのは私の弟の事。姉の私が言うのもなんだけど、結構モテているらしい。バレンタインの時には、貰ったチョコだけで少なくとも2週間は暮らせるんじゃないかと思う。
「お味噌汁あるけどいる?」
「うーん、今日はいいかな。ごちそうさま。」
いつもより少し遅れ気味になってしまったので、急いで制服に着替え、簡単にメイクを済ませる。玄関を飛び出しても、遅いぞー、と笑ってくれる親友はいなかった。
──当たり前、なんだけどね。
自然と涙が零れてしまいそうになったので、慌てて両手で瞼を押さえて、強制的に涙を引っ込ませる。
無言で駅に向かい、電車に乗り、学校へ向かう。朝が楽しかったのは、春歌と話をする事が出来ていたからなんだ、と改めて思い知らされる。
「おはよう…」
力ない私の挨拶に、クラス全員が注目し、全てを察したような視線に、私の心は余計に重くなっていった。
「よう、あいは…じゃなかった、零。」
隣の神木くんが話しかけてきた。
「おはよう、神木く…じゃない、怜斗。」
お互いに同じような間違いをしたから、どちらも少し、笑ってしまった。
「なぁ、零。」
少し真剣な顔で、怜斗が言った。
「え?」
「遠藤の事は、ホントに残念だった。」
本当は返事をしたかったけど、口を開いたら泣いちゃう気がして、出来なかった。
「あの…弁当のハンバーグ、半分やるよ。俺いらないし。」
ん?ハン…バーグ…?待って、これ、夢と全く同じだ。天気は偶然だと思ったけど、流石にこれまでかぶるってある?
「あ…ありがとう…。」
どういうこと?あの夢、正夢だったとか?いやでもこんなしょーもない正夢見るかな?正夢って普通、もっと大きな事が起こる時に見るものだよね……。…てことはまさか……予知夢、だったとか……?いやまさか、ねぇ?いやでもやっぱり……。
私は大して賢くもない頭をフル回転させ、考え込んだ。
──あいつ、死んでよかったわー。
え?
ゆっくりと声のした方を見ると、春歌の席の近くに、何回も染めたんだろうな、っていう艶のない金髪にやけに目立つピアス。明らかに校則違反の制服の乱れっぷり。とても分かりやすいギャル3人組。
「マジそれな!あいつ、何でも出来ますー、なんて顔して男に媚び売って、ぶりっ子過ぎな!!」
ギャハハハ!と下品な笑い声が聞こえる。
何で、そんな事言うの?
これが今の私の率直な意見だった。
すると突然怜斗が席を立ち、ギャル3人組の所へツカツカと歩いて行った。
「なぁ……」
怜斗が話しかけると、ギャル3人組は軽く目を見開いた。しかしすぐにさっきまでの声とは違い、
「あれ?神木くんじゃーん!どしたのぉ?」
うわ、気持ち悪。春歌の悪口言ってる時の表情と、学年一、いやヘタしたら学校一のイケメン相手にする表情、全然違うんだ。春歌は男子に媚びなんか売ってなかった。ただ自然と、周りに人が集まっていただけ。それを、人が寄り付かないのは春歌のせいにして、自分達に非はありません、みたいな顔してる奴の表情は、どんだけ可愛く作ったって、汚かった。
「何で、そんな事言うの?」
「え?」
思いもしなかった怜斗の言葉に、ギャルの顔が一瞬困惑に染まる。私も正直驚いていた。
「何で、って、神木くんもそう思うでしょ!?遠藤ぶりっ子だなーって。」
何で、こんな事が言えるのだろう。不幸な事故で、強制的に人生を終了させられた人に。
「何で、そんな事言えるんだよ。不幸な事故で、強制的に人生を終了させられた人に。」
え、何でさっきから怜斗は私が思っていることを言ってるんだろう?さっきの夢だってまだ結論出てないのに、新たな謎生み出さないでー!
「別にいーじゃん!もうこの世にはいないんだし!」
「そーだよ!神木くんもいつまでも死んだ女に執着しないで、アタシらと遊ぼーよ!」
ありえない。心の底からそう思った。こんなに最低なヤツ、初めて見た。
「お前ら、マジありえねーな。お前らほど最低なヤツ、初めて見た。」
それだけ言い残して、怜斗は早足で、こちらに戻ってきた。
偶然、だよね。
「偶然じゃねぇよ。」
「え?」
ぽかんとした顔で怜斗を見る私に、俺に着いてきて、と耳打ちし、怜斗は席を立ち、教室の外へ出た。私が慌てて後を追うと、上を指さし、
「行くぞ。」
と、階段を登って行った。追いかけていって、着いたのは屋上だった。
「怜斗、どうしたの?急にこんな所に来て……」
「まぁとりあえず座れよ。」
といって、私達はフェンス横の、ドラマでよくある主人公が友達と弁当食べる時に座ってる所的な所に座った。私は小学校、中学校共に屋上は出入り禁止だったから、屋上に行くのは初めてだった。
「で、信じてもらえるか微妙だけど、さっき俺が声に出して言ってたのは、全部お前の気持ちだ。」
「え、えぇぇぇ!?」
私の気持ち!?どうやって!?
「俺がこれから言うこと、信じてくれるか?」
正直急展開すぎて、頭が追いつかなかったけど、私はコクリと頷いた。私が頷くと、怜斗は笑顔で「ありがとう。」と言った。
「さて、突然で申し訳ないんだが、1番の重要事項言うぞ?」
怜斗の神妙な口調に、私も少し緊張する。
「俺には、お前の気持ちが全部分かる。」
一瞬、訳が分からず固まってしまう。が、このまま何も言わないのはまずいと思ったので、私は震えていたけど、なんとか声を出した。
「それって、読心術…みたいな?」
「まぁ、そんな感じかな。」
人の心を読むって……なんか…カッコイイ……かも…。
「人の心を読むってなんかカッコイイって思ったろ。」
また心を読まれてしまって、ビクッとしてしまう。
「それと、お前朝さ。」
「うん?」
「夢と同じだ、とかなんとか思ってたみたいだけど、あれ何だ?」
あぁ、そうか。朝も朝で心読まれてたんだ。
「それは…私も、よく分からなくて…考えても結論なんか出なくって……。」
「は?どういう事だよ、分かんねぇって。」
「え、だから、昨日の夜、夢を見たんだけど、その夢と今日起こっている出来事が同じなの。このまま行くと、多分私、後で指切る。」
「夢に出てきたのか?指切るのが。」
「うん、紙で指切った。」
怜斗はしばらくうーん、と考え込んでから言った。
「まぁ、ホントに紙で指切るのか確かめてからじゃねぇと、何も言えねぇな。」
「そうだよね……」
すると、授業の始まりのチャイムが、暴力的な音で鳴った。
「うるさっ!」
「まぁここ、屋上だしな。スピーカーそこだし。」
「あぁ、なるほど……じゃなくて急がなきゃ!」
「ははっ!分かってるよ、急ぐぞ!」
私達は階段を猛ダッシュで駆け下り、チャイムが鳴り終わったところで席に着いた。
「あらあら、相原さんと神木くん、ギリギリだったわね。」
佐藤先生がふふっと笑った。社会ならもう少し早く戻れば良かったな、と思った。
「すみません…」
私と怜斗のすみません、があまりにもかぶっていたので、クラスの中に、ちょっとした笑いが起こった。
「はい、じゃあ皆さん、教科書の26ページを開いてくださいね。」
パラパラと一斉にページをめくる音が聞こえる。私も教科書開けなきゃ。
「痛っ!」
まさかと思って指を見ると、見事に指が切れていた。怜斗と顔を見合わせる。
「あら、相原さん、指切っちゃったの?大丈夫?」
「あ、大丈夫です。少ししか切ってないので!」
「そうかしら?ならいいんだけど。洗ってきてもいいのよ?」
「すいません、大丈夫です。」
そう?と心配顔で先生は教壇に戻っていく。
「お前、ホントに指切ったのか。」
「うん、切っちゃったね。」
「やっぱり予知だったんじゃ……」
うーん、と二人とも考え込み、大好きなはずの社会の授業も、全く頭に入ってこなかった。