死にたがりティーンエイジを忘れない
プロローグ
わたしの書いた小説がコンテストで入選した。
読めばおなかがすくような、誰かと一緒においしいごはんが食べたくなるような、
そんな短編小説を募ったコンテストだ。
入選作は、わたしのものを含めて十数点あって、『美味しい物語』というタイトルの短編集が編まれた。
今、その本は書店に並んでいる。
美味しい料理や、思い出に残るごはんの物語。
あなたなら何を書くだろう?
わたしは、新撰組の沖田総司を書いた。
肺の病気のために寝付いていたのか、「任務に就いた」という記録が見られない時期の沖田だ。
空想を交えて書いた小説の中で、沖田は、好き嫌いの多いわがままな青年だ。
にこにこと人当たりのよいふりをしながら、出した食事をろくに食べてくれない。
「ほんまに意地悪な人や」と、世話係の町娘はくやしさに唇を噛む。
この物語を思い付いたとき、最初に浮かんだイメージは「匂い」だった。
うんざりするほどの血の匂いと、真心を込めて作られた料理の匂いが、同時にわたしの頭の中に立ち現れた。
まるで記憶のフラッシュバックのように、強烈なイメージだった。
いや、血の匂いと料理の匂いが同時にやって来たのは、確かにわたし自身の記憶だったかもしれない。
肺の病気による喀血ではないけれど、わたしは、喉から口の中まで血に満たされた経験がある。
血を吐いたときに口の中でどんな匂いがするかを知っている。
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