死にたがりティーンエイジを忘れない


型通りの進路指導の二者面談は五月に組まれていた。

それよりも先、四月のまだ上旬のうちに、わたしは鹿島先生に呼び出された。


職員室の隣にある進路指導室に入ると、鹿島先生はベランダに続く引き戸を開けた。

ベランダには椅子が二脚、隣合うでも向かい合うでもない角度に置かれていた。


「部屋にこもって話をするより、外の方がいいだろう。お、ウグイスが鳴いてるぞ」


鹿島先生の手には、わたしの進路調査票や成績一覧を挟んだファイルがあった。

でも、それは二者面談の体裁を整えるだけのものだったらしい。

鹿島先生はファイルの中身を見るでもなく、変な距離感で椅子にかけてそっぽを向いたままわたしに言った。


「おまえ、まだ勉強で本気出してないな。本気出したら、こんなもんじゃないだろ」


何を根拠にそんなことを言い出すのか。

変な先生だ。


「わかりません」

「だろうな。目標もなく本気を出せるやつなんかいない。志望校を決めればいい。そうしたら、自分のポテンシャルと向き合える」

「興味ないんです。家から出られれば、どこでもいいと思っていて」

「だったら、私の後輩になることだ。響告《きょうこく》大学だったら、肌に合うだろう」


耳を疑った。

響告大学の文学部といえば、偏差値七十二から七十四。

文学部の中では、日本で二番目に入試の偏差値が高い大学だ。


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